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7月米雇用統計の失業率上昇と景気後退懸念
梅澤 利文
2024/08/05

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概要

米労働省が発表した7月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は市場予想を下回り、失業率は4.3%に上昇しました。賃金の伸びも鈍化し、米景気減速が示唆されています。失業率の上昇は、景気悪化を示唆する水準ともみられ、市場では米国の景気認識に対して急速に見直しが進んだとみられます。FRBは今後、失業率など雇用に配慮した金融政策に急速にシフトする可能性がありそうです。




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7月の米雇用統計は失業率が市場予想を上回るなど雇用環境が悪化した

米労働省が8月2日に発表した7月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月比11.4万人増と、市場予想の17.5万人増、前月の17.9万人増(速報値の20.6万人増から下方修正)を下回りました。7月は景気変動の影響を受けにくい教育・医療の雇用の伸びが引き続き高水準でありながら前月を下回りました(図表1参照)。雇用者数の伸び悩みが情報部門などにみられました。

失業率は4.3%と、市場予想の4.1%、前月の4.1%を上回り、雇用環境の急速な悪化が示唆されました。

7月の平均時給は前月比0.2%増、前年同月比では3.6%増と、共に市場予想、前月の伸びを下回り賃金の鈍化傾向が確認されました。

7月の米失業率は、景気後退の入り口との判断に抵触する可能性も

7月の米雇用統計に加え、7月後半に発表された米経済指標は4-6月期のGDP(国内総生産)など一部を除き、大半が米景気減速を示唆しています。今回の米雇用統計も米景気減速を示唆した内容で、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の今後に影響を与え得るとみています。

まず、非農業部門の就業者数は7月が市場予想を大幅に下回ったうえ、過去2ヵ月分も2.9万人下方修正されました。部門別では、娯楽・宿泊など一部は堅調さを維持しました。教育・医療や政府部門は前月比の伸びでプラスを確保しました。しかし、前月に比べ伸びは縮小しました。

一方、情報部門や、雇用動向に先行する傾向がある人材派遣などは7月は前月比でマイナス圏となり、押し下げ要因となりました。

景気変動の影響を受けにくいとされる教育・医療や政府部門が雇用の下支えとなっているものの、雇用の伸びは前月に比べ縮小しました。一方で一部の部門を除き、全般に雇用が減少傾向であることから、雇用悪化の兆しとみられます。

7月の米雇用統計で景気減速を示唆したと思われるのは失業率の上昇です(図表2参照)。7月の失業率が4.3%と市場予想を上回ったうえに、失業率上昇ペースと景気後退との関係を示唆する経験則「サーム・ルール」(直近3カ月間の平均失業率が過去1年の最低値を0.5上回れば、景気後退が始まった可能性を示唆)が7月は0.53と閾値に抵触したことに市場の注目が集まりました。

今回失業率が上昇した背景として、失業者数の増加ペースが速まっていることも気がかりです。7月の失業者数は716.3万人で、6月の681.1万人から35.2万人増加しました。6月は前月からの増加が16.2万人だったことに比べ失業者数の増加ペースが速まっているからです。

もっとも、米労働省の家計調査によると、 悪天候のため就業不能に陥った7月の非農業部門労働者数は 43.6万人と、4月から6月の平均5.6万人弱を大幅に上回りました。季節外れのハリケーンの影響が想定され、雇用の悪化に影響した可能性もあります。また、労働参加率は7月が62.7%と6月を上回り、労働市場への参入増が失業率を押し上げるというポジティブな面もあったようです。

しかし、市場の視線は景気後退を意識する必要がある水準にまで上昇した失業率に注がれています。これまで市場は、インフレ鈍化による金利低下と、景気減速にとどまる底堅い景気という心地よい組み合わせを前提としていたと思われます。しかし足元の米経済指標の悪化を受け、急速に景気後退リスクを考慮する必要に迫られていることが米国市場の変動性を高めたとみられます。

FRBはインフレ安定化に加え、雇用の最大化という使命を重視

米雇用市場関連の指標が悪化する中、今後の注目点を考えます。

FRBの政策の中心がインフレ抑制であった時、注目すべきは賃金動向でした。インフレに直接関連するのは賃金だからです。しかし、7月の平均時給は落ち着きを示し続けています(図表3参照)。相対的な注目度はやや低下すると思われます。

一方、FRBは今後雇用の最大化を重視する観点から、失業率の上昇に警戒姿勢を強めると思われます。そこで注目すべき指標の1つは求人件数とみています。足元の求人件数は失業者数を上回っており、失業者1人当たりの求人件数の比率1.2件程度です。しかし、失業者数が求人件数を上回る(先ほどの比率が1を下回る)と、失業率は急上昇する傾向があることを一部のFRB関係者は指摘しています。パウエル議長も同比率に注目していますが、これまではインフレ抑制のゴールとして同比率を見ていましたが、今後は失業率の急上昇と景気悪化の危険なシグナルとして同比率の見方を変える必要があるように思われます。

幅広く米経済指標をみると、景気後退入りと判断するには、証拠不十分のように思われますが、状況は悪化していることも事実であり、今後の動向は緊張感を持って注視する必要がありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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