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- 8月米雇用統計の注目点と今後の展開について
米労働省が発表した8月の雇用統計では、非農業部門の就業者数が市場予想を下回るも、失業率は4.2%と市場予想通りでした。平均時給は前月比および前年同月比で増加しました。このような結果を受け、足元の景気後退の懸念は若干和らいだものの、米労働市場の減速傾向に変わりはないと思われます。市場も今後の景気後退懸念を払しょくするには至らず、データ次第の展開が当面続きそうです。
8月の米雇用統計で就業者数は市場予想を下回ったが失業率は低下した
米労働省が9月6日に発表した8月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月比14.2万人増と、市場予想の16.5万人増を下回りました(図表1参照)。なお、7月は8.9万人増と速報値の11.4万人増から下方修正され、6月も17.9万人増から11.8万人増に下方修正されました。
8月の失業率は4.2%と、市場予想の4.2%に一致し、7月の4.3%を下回りました。8月は、先月に一時的に解雇されていた労働者が職場に復帰することで、失業率の低下が予想されていました。
平均時給は前月比で0.4%増と、市場予想の0.3%増、7月の0.2%増を上回りました。前年同月比では3.8%増と、市場予想の3.7%増、前月の3.6%増を上回りました。
8月の失業率は4.2%と低下し、過度な景気後退懸念は若干和らいだようだ
米雇用統計で注目度の高い非農業部門の就業者数は8月が市場予想を下回ったうえ、過去2ヵ月分は合計して8.6万人分が下方修正されました。過去2~3年の就業者数の伸びの減速傾向とも整合的で、米労働市場の過熱感の後退は明らかです。もっとも、8月の米雇用統計を振り返ると、現段階は景気後退というよりは、減速傾向の途上にあるとみた方がよさそうです。
非農業部門の就業者数を部門別にみると、「娯楽・宿泊」や「建設」など天候に左右されやすい部門において8月は前月を上回りました(図表2参照)。家計調査によると悪天候で就業不能となった労働者は天候が回復した8月は2.4万人と平年並みでしたが、ハリケーン「ベリル」に見舞われた7月は43.6万人と記録的な数字でした。8月の非農業部門の就業者数は市場予想ほどには回復しませんでしたが、少なくとも7月の就業者数の急速な落ち込みを一部埋め合わせたとみられます。
ただし、これまで就業者数の増加を主導してきた「教育・医療」部門は8月が4.7万人増と前月に比べ伸びが縮小しました。頭打ちの可能性はないのか、今後の動きに注意が必要です。
8月最も注目されたのは失業率でしょう。7月の失業率が4.3%に上昇したことで景気後退懸念が急速に高まったからです(図表3参照)。その背景は失業率上昇ペースと景気後退との関係を示唆する経験則「サーム・ルール」(直近3カ月間の平均失業率が過去1年の最低値を0.5上回れば、景気後退が始まった可能性を示唆)が7月に0.5の閾値に抵触したからです。8月もサーム・ルールは0.57と警戒水準にあります。しかし、算出のもととなる失業率は8月が4.2%と、市場予想通りに低下しました。失業率のさらなる上昇が回避されたことで、景気後退懸念は若干和らいだと思われます。
労働市場悪化の見通しの程度が、市場の利下げ予想を左右する展開
8月の平均時給の伸びは市場予想、前月を上回り減速傾向に一服感が見られました。もっとも、部門別に平均時給をみると(図表4参照)、雇用が伸び悩んだ「小売」で平均時給の伸びが加速するなど違和感が残る面もあります。「公益」や「情報」部門などの平均時給は大幅に伸びましたが、一方、「教育・医療」や「娯楽・接客」などの伸びは抑制された水準にとどまりました。平均時給は判断に迷うところですが、再加速というよりは、減速傾向の中の一服感と捉えたほうがよさそうです。
結局、8月の米雇用統計では、非農業部門の就業者数の過去修正分などに弱さも見られましたが、失業率や平均時給などから、足元の景気後退を示唆する内容ではなかったと思われます。
しかしながら、米労働市場が悪化傾向であることは確かで、市場が景気後退を先読みする地合いは当面続く可能性がある中、市場では0.25%を超える大幅利下げの予想が主流のようです。
米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の間で、大幅利下げを支持する声は多くありませんが、発言に影響力のあるウォラー理事は、8月の雇用統計発表後の講演で、大幅な利下げについて「オープンマインド」と述べました。ただし、発言全体から判断すると、9月のFOMCにおける利下げ幅はおそらく0.25%を支持しているように思われます。
米労働市場の減速傾向は明らかながら、どこまで悪化するかの見通しが、利下げシナリオを大きく左右しています。現段階で金融当局にとって大幅利下げは、想定以上の景気の下振れの場合の選択肢という位置づけではないかと筆者はみています。
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