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メキシコ中銀、ハト派的利下げ決定の裏にある不安
梅澤 利文
2024/09/27

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概要

メキシコ中銀は9月26日に政策金利を0.25%引き下げ10.50%とすることを賛成4人、反対1人で決定しました。メキシコのインフレ率の鈍化傾向、米国の利下げ開始、景気見通しの悪化などが利下げの背景で、メキシコ中銀は当面、利下げを続ける意向です。しかし、メキシコ中銀はペソ安などを背景としたインフレ見通しの悪化(上昇)懸念も持ち合わせており、ペソの動向がメキシコ中銀の政策に影響しそうです。




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メキシコ中銀、市場予想通り政策金利を引き下げたが、反対票もあった

メキシコ銀行(中央銀行)は9月26日に開催した金融政策決定会合で、政策金利を0.25%引き下げ10.50%にすることを決定しました(図表1参照)。市場でも大半が0.25%の利下げを予想していましたが、一部は0.50%の利下げを見込む一方で、少数ながら据え置きも見込まれていました。

メキシコ中銀は3月に利下げを開始し、その後しばらく据え置いた後、8月に利下げを再開し、今回は2会合連続の利下げとなります。「迷走」とも称された8月の利下げでは理事5人のうち2人が利下げに反対しましたが、今回は賛成4人、反対1人(据え置きを主張)でした。ペソ安など懸念材料が残る中、一枚岩となりませんでした。

インフレ鈍化傾向と米国利下げなどを追い風に利下げバイアス強める

メキシコ中銀の9月会合で据え置きを主張したのは、ジョナサン副総裁1人となりました。メキシコのインフレ率が鈍化傾向であること(図表2参照)、経済関係が深い米国が利下げを開始したこと、などが利下げの背景とみられますが、雇用が軟化するなど景気への配慮もうかがえます。

メキシコのインフレ率を月次データでみると、8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で4.99%上昇し、前月を下回りました。変動の大きい項目を除いたコアCPIは4.00%上昇と鈍化傾向です。声明文では隔週に発表され速報性がある9月前半のCPIが参照され、前年同月比で4.66%上昇と、足元でさらに物価の減速傾向であることが指摘されています。

物価の先行きについても小幅ながら下方修正しています。前回の会合では24年7-9月期のCPIを前年比で5.2%、10-12月期を4.4%と見込んでいましたが、今回はそれぞれ5.1%、4.3%へと下方修正しています。

さらに、金融政策の今後の方針を示すフォワードガイダンスでは、8月はインフレ鈍化により「利下げはおそらく可能」と控えめでしたが、今回は「ほぼ間違いなく利下げ」と表現が強まっています。

メキシコ中銀の四半期報告によると、24年のGDP(国内総生産)成長率予想は従来の2.4%増から足元では1.5%増に下方修正しました。また、25年の成長予想は1.2%増と鈍化が見込まれています。内需が景気を下支えするものの、高金利が投資を冷え込ませるとメキシコ中銀は指摘しています。また、外需の悪化も見通しを押し下げている要因です。

メキシコのGDP成長率を確認すると4-6月期が前年同期比で2.2%増、短期的な動向を示す前期比は0.2%増と軟調さがみられます(図表3参照)。

メキシコの政策金利は利下げで10.5%になったとはいえ、依然引き締め領域にあるのは明らかで、米国の利下げが開始されたことやインフレ鈍化、景気への配慮などからハト派(金融緩和を選考)バイアスをやや強めたと筆者はみています。

ペソ安要因が目白押しの中での利下げには警戒感も残る

しかしながら、メキシコ中銀の利下げ継続姿勢には、すっきり感がない面もあります。

声明文におけるインフレ評価をみると、どちらかといえばインフレ上昇リスクのほうが高いとメキシコ中銀は見込んでいるからです。メキシコ中銀はインフレ率が25年10-12月期に物価目標の中心値(3%)に到達すると見込んでいますが。しかし、インフレ押し上げ要因として、コアCPIの鈍化が遅れる可能性や、ペソ安懸念など5項目を挙げています。一方で、インフレ下押し要因として景気回復が想定を下回るリスクや、ペソ安がインフレに与える影響が小さい可能性など3項目を指摘し、どちらかといえばインフレの上方修正リスクを見込んでいます。

不思議なのは物価上昇、下落の双方にペソ安が挙げられていることです。ペソ安が物価に与える影響の違いにより、物価上昇を引き起こすなら上方修正要因、それほどでもなければ下方修正要因となっていることです。当面、ペソ回復は見込みにくいとメキシコ中銀も考えているようです。

ペソ安の背景として、メキシコ中銀の利下げもありますが、より懸念されるのは10月に発足する次期左派政権が財政拡大や民間への介入など為替市場を不安にさせる政策を行うことへの懸念です。

また、米国大統領選挙の結果(特にトランプ候補の勝利)次第では高関税政策などが科される可能性もあります。

もっとも、図表1にあるようにペソは選挙結果が判明した6月から大幅安となっており、今後のペソ安は限定的でインフレへの影響は小さいとも考えられます。しかし、ペソを巡る不透明要因がすべて織り込まれたとは考えにくく、メキシコ中銀の金融政策は利下げ路線が基本ながら、ペソの動向に左右されるものと思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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