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- 米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状
米労働省の10月雇用動態調査によると、求人件数は市場予想を上回り、離職率も上昇しました。解雇件数は減少し、雇用市場の安定が示唆されました。ADP雇用報告でもサービス部門の支えにより、全体として労働市場に安定感が見られます。FOMC参加者の発言からも、労働市場の安定化とインフレは物価目標に向かっているとの認識が伺えますが、新たな懸念にも注意を払っている様子です。
米10月の求人件数は市場予想を上回り、労働市場の底堅さが示された
米労働省が12月3日(現地時間)に発表した10月の雇用動態調査(JOLTS)によると、求人件数は774.4万件と、市場予想の751.9万件、前月の737.2万件を上回りました(図表1参照)。米金融当局が注視する失業者一人に対する求人件数の割合は1.1で9月と同じでした。
自発的離職者の割合である離職率は2.1%と、前月の1.9%を上回りました。離職率の上昇から新しい職を見つけやすくなりつつあることが示唆されています。また、10月の解雇件数は163.3万件と、前月の180.2万件を下回り、企業はレイオフなどに慎重であることがうかがえます。離職率、解雇件数に雇用市場の底堅さが伺えます。
11月のADP雇用報告は順調な雇用の伸びを示唆
12月第1週の注目指標は6日に発表される11月の米雇用統計ですが、その準備として他の雇用関連指標を振り返ると、米労働市場の底堅さ、もしくは安定化が浮かび上がります。
求人件数はピークの22年3月には米労働市場の過熱感を背景に1200万件超を記録しました。足元まで鈍化傾向が続き、悪化のようにも見えますが、むしろコロナ禍前の平均的な水準(630万件程度)に近づく局面とみています。単月の指標だけでの判断は控えますが、今後もこの水準近辺での推移となるならば、米労働市場のソフトランディングといえるのかもしれません。
次にJOLTSとは別の雇用関連指標として、米民間雇用サービス会社ADPが4日に発表した11月の全米雇用報告を見ると、非農業部門雇用者数(政府部門は除く)は前月比14.6万人増でした(図表2参照)。10月は18.4万人増と、速報値の23.3万人増から下方修正されました。10月はハリケーンやストライキの影響で統計にノイズが多かったことがうかがえます。
ADP雇用報告の雇用者数を製造業、建設、鉱山からなる「財生産」部門と、それ以外の「サービス」部門に分けると、雇用者数の伸びはほぼサービス部門で説明されます。財生産では建設が前月比3万人増であるのに対し、製造業は2.6万人減と不振であったため財生産部門全体では伸び悩みました。
サービスの雇用者数を個別の部門別に見ると堅調であったのは教育・医療サービスで前月比5万人増と、10月の5.9万人増に続き高水準で推移しました。物流サービスも2.8万人増と堅調でした。サービスの各部門は前月比で概ねプラスの伸びを確保しましたが、娯楽は1.5万人増、金融は0.5万人増と前月を大きく下回りました。サービス全体は米国の雇用者数を押し上げていますが、内容を見ると部門ごとに強弱が見られました。
ADP雇用報告における非農業部門雇用者数の伸びが15万人程度というのは、労働人口などから見て、過度な賃金上昇圧力もなく、新規の労働力を吸収する、ほどよい水準ではないかと思われます。10月の数字にはノイズの可能性が考えられますが、今後も雇用者数の伸びが11月のような水準で変動し続けるなら、米連邦準備制度理事会(FRB)は労働市場に対し警戒トーンを和らげるかもしれません。
インフレや労働市場の均衡を認識するも、警戒は怠らない姿勢
米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の最近の発言を見ると、雇用市場の安定を認識しているようですが、新たなインフレ懸念要因にも注意を払っているようです(図表3参照)。
求人件数やADP雇用報告で見られたように米労働市場は安定化(均衡)していることは、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁の発言に伺えます。雇用市場の悪化を懸念していたサンフランシスコ連銀のデーリー総裁の発言からは労働市場悪化への懸念が後退したことが示唆されます。
そうした中、12月のFOMCで利下げを一時停止してペースを落とすことも選択肢と、セントルイス連銀総裁が指摘しています。もっとも、ウォラー理事のように12月利下げを支持(データ次第ながら)とも受け取れる発言もあることから、FOMC参加者の中での合意形成はこれからなのかもしれません。
クーグラー理事はインフレ、労働市場は良い方向に向かっているとの認識を示しています。また、過去の移民の流入のプラス面を指摘しています。しかし、新政権の移民や関税政策が新たなインフレ圧力となることへの警戒感を匂わせました。
FOMC参加者の発言を振り返ると、12月の利下げについて決め打ちはしてない印象ですが、利下げペース調整開始の時点は明らかに近づいているようです。
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