Article Title
iTrustバイオ|AIの活用が加速させる新薬開発~迅速なタンパク質の構造解明がもたらす効果
2023/09/28

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

●人工知能(AI)の活用により進むタンパク質の構造解明
●AIが新薬開発の成功確率を高める可能性
●指針の策定が急務ではあるものの、予測AI が医学の「新しい夜明け」をもたらすことへの期待は大きい



Article Body Text

※当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料です。

■人工知能(AI)の活用により進むタンパク質の構造解明

タンパク質は細胞の重要な構成要素であり、細胞は生命体の構成要素です。タンパク質構造がどのように形成され変性するかを理解することは、生物学の理解に重要であり、新薬開発の迅速化、より強い穀物の開発、プラスチック廃棄物の分解などを容易にしています。

とはいえ、タンパク質の構造は、その構成要素であるアミノ酸からなる線状ポリマーが、折り畳まれた3次元構造の形状をしているため、最近まで解明が困難でした。タンパク質の折り畳み構造は、性質の異なる様々なアミノ酸の相互作用の最適化を可能とし、紙ではなく、鎖状のビーズで作られた折り紙のような形をしています。  

ボストンに拠点を置く創薬企業、AIプロテイン(AI Proteins)の共同創業者であるクリス・バール博士(Dr. Chris Bahl)は、「実験によってタンパク質の構造を決定するには、労力と時間を要します。そのための実験は、タンパク質構造が初めて解明されてからの半世紀で数十万回行われたに過ぎません」と述べています。大きな数字のように思われるかもしれませんが、タンパク質構造が何億個もある可能性を考えると、ごくわずかの数字に過ぎません。また、その解明には、何年もかかるような骨の折れる作業だけでなく、X線結晶構造解析や低温電子顕微鏡分析など、費用のかさむ技術を必要とします。

こうした状況が一変したのは、(アルファベットの子会社である)ディープマインド(DeepMind)が、政府間研究機関の欧州分子生物学研究所(European Molecular Biology Laboratory:EMBL)と提携し、人工知能プログラム、「アルファ・フォールド(AlphaFold)」を共同開発した2021年のことです。アルファ・フォールドはAIを使い、「人間の能力を遥かに凌駕するスピード」でアミノ酸配列からタンパク質構造を予測することが出来る、とバール博士は話しています。このツールは2億以上のタンパク質構造の予測を可能にしています。

2022年には、フェイスブックの親会社、メタ・プラットフォームズ(Meta)が、バクテリア、ウイルス、微生物などから採取され、それまで特性が解明されていなかった約6億個のタンパク質の形状を予測するデータベースを公開しました。メタ・プラットフォームズの手法には、ChatGPTが公開されてから注目を集めている、大規模言語モデル(LLM)が使われています。LLMは、数文字あるいは数語から文章を予測することの出来る、タンパク質の「オートコンプリート」のようなものです。

LLMとアルファ・フォールドの主な違いは、LLMが近接するアミノ酸配列、あるいは多重配列アラインメント(MSA)に係る情報を必要としないことです。MSAは、タンパク質配列のデータベースを検索し、生命体の既知の類似配列を特定します。一方、LLMは、既知のタンパク質とは類似点のないタンパク質の構造を予測することが可能であり、突然変異が起こった場合にタンパク質に起こり得る変化を探ることが出来るという点が強みです。LLMのアルゴリズムはアルファ・フォールドに比べて正確性に欠けると考える研究者がいる一方で、LLMは作業が相対的に速く、わずか2週間で構造を解明するという利点を有しています。「このような革命を実際に体験出来ることは、科学者にとって望外の幸せです」と、EMBL所長のエディス・ハード(Edith Heard)教授は述べています。

重要なことは、誰でも、新しい発見が利用出来るのだということです。アルファ・フォールドは、(インターネット上で無料閲覧が可能な)オープンアクセスのプログラムであり、メタ・プラットフォームズもデータベースの作成に必要なコードを公開しています。こうした姿勢は、アルゴリズムにとって領域を拡大するものであり、ハイテク企業がアルゴリズムの構築に際して公開データベースに依存している状況を反映しています。

ディープマインドのアルゴリズムは、EMBLが持っていたデータがなければ構築出来ませんでした。「アルファ・フォールドを本当にゲームチェンジャーにしたかったら、これをオープンアクセスにして、すべての人と共有しなければならなかったのです」と、ハード教授は述べています。

■AIが新薬開発の成功確率を高める可能性

AIを使った予測は科学研究を加速させています。米国コロラド大学の生化学者たちは、10年間にわたり解明を試みてきた、バクテリアのタンパク質構造を15分で確定することが出来、抗生物質耐性菌の研究を助けています。また、英国のポーツマス大学では、プラスチックを分解する酵素の開発にアルファ・フォールドを使っています。「これらは、地球の修復に役立ちます。素晴らしいことです。これほどのスピードで研究が進められるなんて数年前には想像さえ出来ませんでした」とハード教授は述べています。

スウェーデンのストックホルムにあるカロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)は、尿路や消化器官内の細菌感染を阻止する可能性があるタンパク質構造の解明に、アルファ・フォールドを使っています。また、オックスフォード大学では、寄生虫による感染サイクルのすべての局面を標的とする、マラリア・ワクチンの開発を進めており、マラリアの治療だけでなく感染防止にも取り組んでいます。これまで、ワクチンだけでマラリアの完全な治療が出来なかったのは、数百あるいは数千の表面タンパク質があり、そのすべてを標的として定めることが難しかったからです。アルファ・フォールドは、蚊の内臓にいる寄生虫の成長に必須のタンパク質であり、主要タンパク質の一つであるPfs48/45を特定することで既知の技術を凌駕したのです。

医薬品の研究分野では、誤った標的を追求しているために、膨大な時間と資金が浪費されています。予測AIは、新薬の開発を成功させる確率を高めることが可能です。「これまでは時間も資金もかかり過ぎましたが、これからは、科学のあらゆる分野が開花すると思います」とハード教授は述べています。 

アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患は、タンパク質の折り畳み構造の間違いが原因です。神経変性疾患の他、糖尿病やがんなど、死因の上位を占める現代病の多くは、人類が何千年も宿敵としてきた細菌やウイルスではなく、身体の機能不全が原因なのです。医薬品の多くが、体内の特定のタンパク質を標的として作用するため、間違って折り畳まれたタンパク質の構造についての情報にアクセスすることが、薬の開発を促すと同時に、標的とするタンパク質に正確に結合し、その機能を変える薬剤の設計を可能とします。AIプロテインのバール博士は、次世代型の殺虫剤や農業への応用等、医学以外の分野での様々な進化にも楽観的で、「これは、生物学に対する支配を解除する手段です。生物学には、基本的にタンパク質が介在しており、タンパク質の設計は生物学に対する前例のない支配を人類に与えてくれるからです」と述べています。

■指針の策定が急務ではあるものの、予測AIが医学の「新しい夜明け」をもたらすことへの期待は大きい

もっとも、疾患に関連するタンパク質の全てが薬剤に反応するわけではありません。薬物分子にしっかりと効果的に結合することが出来ず、薬に反応しないタンパク質があるからです。このような場合にも、リボ核酸(RNA)に焦点を当てることでAIが役立ちます。RNAは、DNA(遺伝子情報を含む分子であり、生命体が機能するために必須のタンパク質を生成するための設計図)と、そうしたタンパク質の生成過程の間の重要なステップです。人間の細胞が作る10万個ほどの異なる種類のタンパク質のそれぞれは、DNA配列から転写されて作られる固有のRNA配列を持っています。

タンパク質が生成される前にRNAを標的とすれば、タンパク質の生成前あるいは生成過程で、薬がタンパク質を変えることが可能です。新型コロナウイルス・ワクチンや一部のがん治療薬などのRNA治療薬は、既に何百万人もの患者の治療に使われており、コンピューター上でRNAの形状を、迅速かつ正確に予測する能力は、RNA分子の理解を促し、ヘルスケア・セクターでの利用の幅を広げるものと考えます。 

「AIを活用したRNA構造の予測が大きな効果をもたらす理由は、必要とするRNAだけを標的にする薬剤を見つけることが極めて困難だったからです」と説明するのは、米国カリフォルニア州に拠点を置くアトミック AI(Atomic AI)の創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるラファエル・タウンゼント博士(Dr Raphael Townsend)です。RNAの構造が理解出来れば、プロセスをより選択的なものにすることが出来ると考えます。

これまでの成果は将来を期待させますが、科学の面でも規制の面でも、多くの課題が残されています。米食品医薬品局(FDA)の「デジタルヘルス・イノベーションに関する行動計画(Digital Health Innovation Action Plan)」は、デジタルヘルス・プロダクトの承認プロセスを加速させることを期待して2017年に発表されました。また、2021年には、FDAが英国およびカナダの規制当局と共同で策定した、医療機器分野の機械学習に係る指針が発表されました。 

製薬分野におけるAIの具体的な使用に係る指針は未だ策定されていませんが、FDAは、政策の立案に際して検討されるべき事項を明確に記載した討議資料を公表し、市民、製薬業界、研究機関などからのフィードバックを促しています。「規制当局がこうした事項を早急に検討する必要があるのは、新薬の開発に臨床試験が大きな障害となることが予想されるからです」と、AIプロテインのバール博士は警告しています。

もっともバール博士は、医学の「新しい夜明け」を期待して、総じて楽観的です。博士によれば、「生物学における予測AIは、生物医学研究や宇宙物理学等、あらゆる分野の『芸術と科学のルネッサンス』の一部です。すべてが相乗効果を持って起こり、計算技術の進歩が、実験室で使われるテクノロジーや自動化の進歩と同時に前進している」のです。



●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した販売用資料であり、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。取得の申込みにあたっては、販売会社よりお渡しする最新の投資信託説明書(交付目論見書)等の内容を必ずご確認の上、ご自身でご判断ください。
●投資信託は、値動きのある有価証券等(外貨建資産に投資する場合は、為替変動リスクもあります)に投資いたしますので、基準価額は変動します。したがって、投資者の皆さまの投資元本が保証されているものではなく、基準価額の下落により、損失を被り、投資元本を割り込むことがあります。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。また、医薬品についてもあくまで参考として紹介したものであり、その医薬品を推奨するものではありません。

お申込みにあたっては、交付目論見書等を必ずご確認の上、ご自身でご判断ください。
投資リスク、手続き・手数料等については以下の各ファンド詳細ページの投資信託説明書(交付目論見書)をご確認ください。

iTrustバイオ



関連記事


日付 タイトル タグ
日付
2024/10/31
タイトル iTrustバイオ|2024年7-9月のiTrustバイオの振り返りと今後のポイント タグ
日付
2024/10/01
タイトル iTrustバイオ|米国大統領選挙迫る、バイオ医薬品株式への影響と過去のパフォーマンスの振り返り タグ
日付
2024/09/20
タイトル iTrustバイオ|インフレ抑制法に基づく対象品目の薬価削減率は予想よりも小幅にとどまる タグ
日付
2024/09/02
タイトル iTrustバイオ|主要バイオ医薬品企業の2024年4-6月期決算と注目ポイント タグ
日付
2024/07/30
タイトル iTrustバイオ|2024年4-6月のピクテ・バイオ医薬品マザーファンドの振り返りと今後のポイント タグ
日付
2024/06/03
タイトル iTrustバイオ|主要バイオ医薬品企業の2024年1-3月期決算と注目ポイント タグ
日付
2024/05/13
タイトル iTrustバイオ|2024年1-3月のピクテ・バイオ医薬品マザーファンドの振り返りと今後のポイント タグ
日付
2024/03/25
タイトル iTrustバイオ|主要バイオ医薬品企業の2023年10-12月期決算と注目ポイント タグ
日付
2024/02/09
タイトル iTrustバイオ|2023年10-12月のピクテ・バイオ医薬品マザーファンドの振り返りと今後のポイント タグ
日付
2023/12/27
タイトル iTrustバイオ|主要なバイオ医薬品企業の状況 タグ
日付
2023/12/22
タイトル iTrustバイオ|2023年のバイオ医薬品企業をターゲットとしたM&Aの総額は1,200億米ドルに迫る タグ
日付
2023/11/28
タイトル iTrustバイオ|バイオ医薬品企業の注目の治療薬候補(パイプライン)の2023年の開発と承認の動向 タグ
日付
2023/10/30
タイトル iTrustバイオ|2023年7-9月のピクテ・バイオ医薬品マザーファンドの振り返りと今後のポイント タグ
日付
2023/10/18
タイトル iTrustバイオ|AIが加速する医薬品開発と主なバイオ医薬品企業のAI活用 タグ
日付
2023/08/30
タイトル iTrsutバイオ|バイオ医薬品企業をターゲットとしたM&Aの総額 は2021年、2022年を超える タグ
日付
2023/08/04
タイトル iTrustバイオ|2023年4-6月のピクテ・バイオ医薬品マザーファンドの振り返りと今後のポイント タグ
日付
2023/05/31
タイトル iTrustバイオ|景気の先行き懸念が高まる中、バイオ医薬品株式が注目される可能性 タグ
日付
2023/05/08
タイトル iTrustバイオ|2023年1-3月のピクテ・バイオ医薬品マザーファンドの振り返りと今後のポイント タグ
日付
2023/04/21
タイトル iTrustバイオ|米バイオ医薬品企業プロメテウス・バイオサイエンシズを米医薬品大手メルクが108億米ドルで買収 タグ
日付
2023/03/20
タイトル iTrustバイオ|米バイオ医薬品企業シージェンを米医薬品大手ファイザーが430億米ドルで買収 タグ
日付
2023/03/02
タイトル iTrustバイオ|肥満の解消に取り組む医薬品企業 タグ
日付
2023/02/06
タイトル iバイオ|2022年10-12月に相対的に好調なパフォーマンスとなったピクテ・バイオ医薬品マザーファンド タグ
日付
2023/01/18
タイトル iバイオ|パフォーマンスの改善が続くバイオ医薬品株式の注目ポイント タグ
日付
2022/10/04
タイトル iバイオ|バイオジェンがアルツハイマー病治療薬レカネマブ の良好な治験結果を発表、株価は大きく上昇 タグ
日付
2022/04/04
タイトル iTrustバイオ|年初来の動きと今後の見通し タグ
日付
2021/06/22
タイトル 年初来でバイオ医薬品株式が出遅れた背景 タグ
日付
2021/06/11
タイトル バイオジェンのアルツハイマー症治療薬が承認、FDAの判断に注目 タグ
日付
2021/01/19
タイトル コロナ禍でも新薬の開発は順調 タグ
日付
2020/12/17
タイトル 2020年もバイオ医薬品企業をターゲットとしたM&Aが続く タグ
日付
2020/09/18
タイトル M&Aはバイオ医薬品株式の上昇要因 タグ
日付
2020/08/31
タイトル 米食品医薬品局(FDA)の新薬承認環境を考える タグ
もっと見る