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- 新興イン | ウクライナ侵攻による新興国への影響
●ロシアによるウクライナ侵攻は、投資家にとっては新たなリスクと同時に、投資の好機
●世界株式は成長株中心に低調に推移するなか、当ファンドの基準価額は底堅く推移
●投資先の新興国のガバナンスについては、従来以上に徹底的な分析と分散投資が肝要
■ 底堅いパフォーマンス
世界経済の成長鈍化懸念や物価高進に加えて、ウクライナ情勢には解決の兆しが見られず、中国では2ヵ月以上続いた新型コロナウイルス対応のロックダウン(都市封鎖)の影響が経済成長の障害となっています。また、日銀など一部を除く主要中央銀行による積極的な金融引き締めに対する警戒感も高まっており、金融市場は不安定な動きとなっています。2022年の市場予想*では引き続き物価の上昇が予想される一方、経済成長率予想は鈍化しており、景気停滞下で物価が上昇するスタグフレーションが懸念されています。 (*ブルームバーグ集計のコンセンサス予想)
このような状況下、世界株式は成長株中心に低調に推移するなか、当ファンドの基準価額は底堅く推移し、2020年9月頃から世界成長株式のパフォーマンスを上回って推移しています。この背景には、資源価格が高騰するなかで、1)資源国経済にプラスとなること、2)先進国と比較した相対的な新興国の経済成長の高さなどが注目されていることなどあります。但し、ウクライナ情勢の影響が大きいロシアやその周縁国、都市封鎖の影響が懸念される中国などが大きく下落する一方、資源高の恩恵が大きいインドネシアやブラジルなどは堅調に推移するなど明暗がわかれています。
このため、従来以上に徹底的な分析と分散投資が肝要です。
■ ロシアによるウクライナ侵攻による資源価格への影響
ロシアによるウクライナ侵攻がエネルギー価格に及ぼした影響は、疑う余地のないものでした。ロシアに対する西側諸国の前例のないほど厳しい制裁と、エネルギー供給が制約されるのではないかとの恐怖が原油および天然ガス価格を急騰させました。ロシアのGDP(国内総生産)が世界全体のGDPに占める割合は僅か2%程度に過ぎませんが、一方で同国の原油、天然ガス、パラジウムの生産量が世界の総生産量に占める割合は、およそ1割~5割に達します。ピクテの試算によると、今後原油価格が侵攻前の水準を50%以上上回って推移した場合には直接的、間接的な影響により、2022年の世界のGDPは(前年比)0.4%の縮小になるものと予測されます。
ロシアは対外債務の不履行(デフォルト)や国際収支悪化のリスクにも晒されています。
新興国を見ると、ロシアは各種資源の主要な輸出国であり、産業用金属や木材等、エネルギー以外のコモディティも輸出しています。また、ロシアとウクライナは、小麦、トウモロコシ、ヒマワリ油等、農産物の主要生産国であり、ユーラシアおよび北アフリカの一部の国は小麦の輸入を両国に依存しています。従って、新興国の多くは農産物価格上昇の弊害を被っています。一部の資源国が価格高騰の恩恵を享受する一方で、資源を持たない国の苦境が際立ちます。他方、ロシアに対する西側諸国の制裁に起因して、割安な価格で市場に放出されたロシア産原油や天然ガスを調達するという恩恵に預かる新興国も散見されます。
■ 新興国の明暗を分ける資源価格の高騰
資源価格の高騰が物価に及ぼす影響は、消費品目の構成次第で国ごとに大きく異なります。家計の所得に占める食料やエネルギー支出の比率が高く、相対的に貧しい国はロシアのウクライナ侵攻前から既に物価の上昇に苦しんでいますが、こうした状況がこれらの国々の政治の安定に影響を及ぼす可能性があることには注意が必要です。
資源高を背景としたインフレ高進は、ブラジルやインドネシア、南アフリカなど需要の高い資源の産出国の経済は恩恵を受けるのに対して、インド、トルコなど資源の輸入依存度が高い国の経済にはマイナスです。また、後者では、インフレに伴って政治リスクが増大しています。近年の新興国投資では経済成長やテクノロジーが注目される傾向が強まっていましたが、投資家は今、グローバル経済の基本的な要素である資源を再認識する必要に迫られています。
ロシアによるウクライナ侵攻の影響は国や地域によって大きく異なります。トルコ、中欧・東欧ならびにバルト海諸国は、ロシア、ウクライナ両国に対する輸入依存度が際立ちます。対照的にアジア各国は両国を主要な貿易相手国としていないため、食料およびエネルギー供給網(サプライチェーン)の混乱の影響を除けば影響は相対的に軽微です。もっとも、アジア域内でも国によって状況は異なります。資源国であるインドネシアとマレーシアが恩恵を享受しているのに対し、資源の輸入依存度が高いインドとフィリピンは相対的に脆弱です。一方、資源を殆ど持たない韓国やシンガポールは外貨準備を積み上げており、対外収支も良好です。
ロシアによるウクライナ侵攻の影響は資源価格に留まりません。一例を挙げれば観光業も苦戦を強いられています。観光業で外貨を稼いできたスリランカでは経済危機により、内閣が総辞職し、国際通貨基金(IMF)に支援を要請しました。
■ 米ドルが決め手
ロシアに対する経済制裁は、米ドルが世界の基軸通貨であることから効果をあげています。ロシアの一部金融機関の国際決済網(SWIFT)からの排除、ロシア中央銀行の外貨準備の凍結、商業銀行の海外業務の禁止等、過去に例を見ない強力な制裁は、ロシア銀行セクターの70%程度に影響を及ぼしているとされ、ロシアにとって非常に厳しい状況となっています。ロシアはこの種の金融面の脆弱性を補うため5,000億米ドル規模の外貨準備を積み上げてきましたが、制裁の影響を排除するには至っていません。
こうした「金融の武器化」は、中国等が自前の決済システムの開発を加速させると同時に、資源国には資源の決済をドル建てからドル以外の通貨に変更するよう促す可能性が考えられます。これらの試みがどの程度成功するかは別問題です。
■ 中国に対する影響
中国に及んだ短期的な影響は、相対的に軽微に留まる公算が大きいと考えます。これはロシアが中国の輸出先の僅か2%を占めるに過ぎないためですが、一方でロシアは中国からの資金に依存しています。また、ロシアのウクライナ侵攻は、中国がロシアの原油や天然ガスを割安な価格で調達することを可能としています。
このことは、足元、低位に留まる中国のインフレには中長期的な追い風です。また、中国政府は2022年の経済成長率目標を5.5%に設定しており、目標実現のために金融、財政両面から景気浮揚策を講じることが予想されます。ロシアによるウクライナ侵攻の長期的な影響は、ロシアが米・中間の勢力均衡の決め手となる可能性があるということです。厳しい制裁を課された状況でロシアが他国と取引するための数少ない手段の1つは中国人民元を使った取引ですが、このことは、米国の金融覇権の代替として中国が期待される可能性を示唆しているようにも思われます。もっとも、中国に深刻な政治リスクがあることも事実です。近年多くの産業に対して当局の規制が強化されたことや、ハイテク以外の「ローテク・セクター」を標的とした米国との貿易戦争の行方が懸念されます。
■ 新興国に対するリスク・プレミアムの上昇とESGの重要性
経済成長やインフレ動向が読み難い状況下、新興国に対するリスク・プレミアムはここ数週間、上昇基調を辿っています。新興国が相変わらず政治リスクに晒されている状況は変わらないこと、また、政治リスクが従来資産価格に織り込まれることを示唆しています。皮肉なことに、新興国株価指数が内包する明らかに高いリスクは、ロシア株式の当該指数からの除外に伴って低下しています。
このことは新興国投資に際して、環境・社会・ガバナンス(ESG)要因が重要であることを明確に示しています。3つの要因はいずれも重要な役割を果たしていますが、新興国投資に際してはガバナンス要因の重要性が一段と増しています。
■ 今後の見通しと投資方針
ロシアによるウクライナ侵攻は、世界の市場を混乱の渦に陥れました。侵攻の影響が最も長引くことが予想されるのは新興国ですが、投資家にとっては新たなリスクと同時に、投資の好機が提供されていると考えます。
原油、天然ガスおよびその他資源の供給が滞ったことから、既に世界各地で上昇し始めていた物価に一段の上昇圧力がかかる結果となりました。ロシアの好戦的な態度が多くの観測筋の不意を打ち、プーチン大統領に対する中国の支援が同国と西側諸国との関係を一段と緊張させています。一方で紛争の中長期的な影響は軽微に留まる公算が大きいとも思われます。中長期的な観点では、ロシアのウクライナ侵攻に対して先進各国が連携し協調行動を取ったことにより、将来の政府の行動が世界秩序の維持に従来以上に効果的に働く可能性があるとの希望も生まれています。また、ロシアの苦境は、中国による台湾侵攻の抑止力となりリスクを後退させたと言えるかもしれません。
株式市場への影響は、ロシア株式、原油や資源価格の高騰によりマイナスの影響が大きいトルコやインドなど資源の輸入国依存度の高い国にはマイナスの影響を及ぼす一方、インドネシアや中東諸国などの資源輸出国にはプラスとなり、新興国株全体ではマイナスの影響は小幅にとどまっています。
今後1年から2年については資源価格の上昇が、世界各国の経済成長とインフレ動向に影響を及ぼすものと思われます。一方、中長期的な観点では、先進国が「世界の警察」としての役割をどの程度担うことになるのか、また、新興国がそれにどう対応するかによって先行きが読み難い状況です。米ドルの覇権や信認が永久に損なわれる可能性も否めません。いずれにしても、投資先の新興国のガバナンスについては、従来以上に徹底的な分析が必要になると考えます。特に、新興国は先進国に比べて地政学リスクが高いことから、より幅広い分散投資が肝要です。
当ファンドでは流動性が許す限りロシア株式を排除する一方で、資源価格の急騰やインフレが進む局面で妥当だと判断した銘柄の組入れを行ってきました。また、中東の銘柄や、ラテンアメリカの鉱山銘柄等、コモディティ価格上昇の恩恵が期待される銘柄を組入れており、市場別では、ブラジルの配分を高めにしています。
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