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円が地盤沈下するリスク
市川 眞一
2022/02/04

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概要

国際銀行間通信協会(SWIFT)によれば、昨年12月、国際間決済における人民元のシェアが2.70%になり、6年4ヶ月ぶりに日本円を上回った。中国は米国と将来の覇権を争う上で、デジタル人民元を極めて重視している模様だ。米国も重い腰を上げ、ドルのデジタル化に一歩踏み出した。フィンテックを駆使した米中の通貨戦争は、円の地位を地盤沈下させる可能性がある。



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人民元の国際化:戦略的ツールとしてのデジタル人民元

2021年1~11月における中国の通商取引額は、輸出入合計で4兆3,741億ドルに達し、米国の3兆4,121億ドルを大きく上回っている。しかしながら、SWIFTの国際決済取引を通貨別に見ると、昨年12月、米国ドルの比率は40.51%と人民元を圧倒した。2020年以降、人民元は緩やかにシェアを上げ、日本円を追い越す勢いだが、米中の格差は極めて大きい(図表1)。国際決済は依然としてドル中心なのだ。

2018年11月5日、SWIFTはイランの銀行を同社のシステムから遮断した。2012年に続く2回目の措置が採られた背景は、この日、米国のドナルド・トランプ大統領(当時)が発動した対イラン経済制裁だろう。ベルギーに本部を置くSWIFTは米国政府の機関ではないものの、国際決済がドル中心のため、米国当局や米銀の強い影響を受けざるを得ない。

これは、米国と対立を深める中国、ロシアなどにとっては大きな脅威と言える。国際決済システムから締め出された場合、経済的な打撃が極めて大きくなると想定されるからだ。

2015年、中国は人民元による国際決済を担う機関として人民銀行の監督下に『国際インターバンク決済システム(CIPS)』を設立した。しかしながら、現時点では国際的な広がりに欠け、規模の点でSWIFTには遥かに及ばない。

次の一手として中国が考えているのが中央銀行デジタル通貨(CBDC)としてのデジタル人民元ではないか。貿易決済や途上国への経済支援に活用することで、習近平政権は人民元経済圏を構成する意図と考えられる。多くの国・企業がデジタル人民元を保有すれば、自ずと国際決済における人民元のウェートは高まらざるを得ないだろう。

 

重い腰を上げる米国:技術・制度設計両面で円は正念場へ

去る1月20日、FRBは『通貨と支払い:デジタル化への時代における米国ドル』とのレポートを発表した。デジタルドルを発行した場合のメリット、デメリットに関する論点整理だ。グリーンバック(ドル紙幣)を基軸とした国際金融秩序に対するデジタル人民元の挑戦を受け、米国の通貨当局も重い腰を上げたと言えるかもしれない。

今後の注目は国際決済における人民元のシェア、そして各国による外貨準備の構成比だろう。2016年末に0.8%に過ぎなかった人民元のウェートは、昨年9月末に2.5%になった(図表2)。米国の55.1%には遠く及ばないものの、今後、急速にシェアを向上させる可能性は否定できない。

米中の覇権争いがデジタル化を通じた通貨戦争のステージに突入、両国は最先端のIT技術をフィンテックに応用し、真っ向勝負となるだろう。問題は日本がそれに付いて行けるか否かである。技術、制度設計の両面で出遅れた場合、国際金融市場において円はさらに地盤沈下が避けられず、長期的には為替相場にも影響する可能性があるからだ。


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市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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