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- 海外勢による日本株の巨額売り 中国を彷彿とさせた「所得再分配」
9月27日~10月1日における海外投資家の日本株(現物株+先物合計)売買は1兆7568億円もの売り越しとなった。海外投資家にとって岸田首相が掲げる「所得再分配」政策は中国の「共同富裕」を彷彿とさせる内容であり、それが巨額売りを誘発するひとつのきっかけになった可能性がある。海外勢の不信感を完全に払拭させるには具体的な「成長戦略」が欠かせない。
海外勢による日本株売りはコロナショックに匹敵
菅前首相による突然の退陣表明で一気に高まった日本株の「政局相場」は、岸田新内閣の政策に対する警戒感から短命に終わろうとしている。日本取引所グループの集計によれば、今年9月第5週(9月27日~10月1日)の海外投資家による日本株の現物株と先物合計の売買は1兆7568億円の売り越しとなっており、これは菅前首相の退陣表明直後の9月第2週(9月6日~9月10日)における1兆587億円の買い越しを帳消しにしただけでなく、昨年2月第4週(2月25日~2月28日)の1兆7768億円の売り越し(コロナショック)に匹敵する記録的な金額だった(図表1)。海外勢が失望した理由は、自民党総裁選で「改革派」と見られていた河野太郎氏が敗れ、「所得再分配」を重視する岸田文雄氏が勝利したためだ。特に市場関係者の間では、岸田文雄新首相が提言した株式の売却益や配当への金融所得課税の強化に対する警戒感が広がっている。
無論、日経平均株価の急落は国内要因だけではない。中国では「中国恒大問題」等をきっかけとした不動産市場の低迷や、電力不足を背景とした重厚産業における稼働率の低下等による中国経済の減速が危惧されている。また、米国ではインフレ圧力の高まりを背景とした消費者マインドの悪化やサプライチェーンのボトルネックから生じる在庫不足等も懸念されている。グローバル経済の先行きに不透明感が高まれば日本株が軟調に推移するのも無理は無いが、一時はグローバル株式市場に対して久方ぶりに逆行高となっていただけに、日本株に対する落胆は大きかったであろう。
中国の「共同富裕」を連想させた「所得再分配」政策
岸田文雄首相が掲げる「所得再分配」政策は、海外投資家の期待にそぐわなかっただけでなく、(不運にも)その発表時期に関してもタイミングが悪かった可能性がある。折りしも中国では社会格差を是正するための「共同富裕(貧富の格差を縮小して社会全体が豊かになる目標)」実現のため、教育や不動産産業等への規制強化や、大企業/超富裕層に対する富の分配圧力が高まっていた最中である。前述した「中国恒大問題」もこの「共同富裕」の実現が根幹にあるだけに、海外投資家は中国株を敬遠する動きが加速していた。そのような中で、日本の新政権から提言された政策のひとつが「所得再分配」だったわけである。
もちろん、中国の「共同富裕」と日本の「所得再分配」政策は(おそらく)似て非なるものであり、同一視すべきではないだろう。しかし、企業に対して賃上げを促し、いわゆる「1億円の壁(総所得1億円を境に所得税の負担率が下がる現象)」を打破するための金融所得課税の強化は、大企業や超富裕層から富を再分配し中間所得層の底上げを狙う点で共通している。海外投資家が注目する米主要メディアでは、岸田文雄氏が第100代内閣総理大臣に選出された際に、「Fumio Kishida, called for more aggressive distribution of wealth to those with lower and middle incomes(岸田文雄首相は、より積極的な低・中所得層に対する富の分配を行うことを求めた)」と報じた。この「more aggressive(より積極的な)」という言葉に、海外投資家は不穏な空気を感じたに違いない。
岸田文雄首相は10月10日のテレビ番組に出演した際、金融所得課税について「当面は触ることは考えていない」とし、一転してマーケットに配慮した方針を示した。この方針を株式市場は短期的に好感する可能性はあるが、10月31日に投開票が予定される衆議院総選挙で仮に自民党が勝利した場合、この方針がその後も堅持されるかは現時点で不透明である。海外投資家の不信感を完全に払拭させるには、具体的な「成長戦略」を示すことが欠かせないだろう。
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