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- ユーロ圏の賃金とインフレ動向
ユーロ圏の賃金動向を捉える指標の1つである妥結賃金の21年10-12月期分が公表され、緩やかな回復傾向が示されました。ユーロ圏の賃金は雇用市場の改善と連動する傾向があり、上昇が想定されますが、回復は小幅にとどまりました。しかし新型コロナウイルスの影響が低下することもあり22年以降の動きには注意が必要と見ています。
欧州中央銀行:妥結賃金指数は緩やかながら回復傾向を示唆
欧州中央銀行(ECB)は2022年2月22日、ユーロ圏の賃金動向を示す妥結賃金(negotiated wage、交渉賃金などと表記されることもある)を発表しました(図表1参照)。
21年10-12月期の妥結賃金は前年比1.51%で、前期の上昇率1.35%を上回り、ユーロ圏の賃金が回復傾向にあることは示されました。ただ依然低水準にとどまっています。
コロナ禍の特殊要因で抑制されていたユーロ圏の賃金に変化があるのかに注目したい
ユーロ圏の賃金動向を示す1つの指標である妥結賃金はあまり紹介されることはありませんが、インフレ動向の主要な要因である賃金の動きを見る上で参照すべき指標の1つと見ています。賃金動向を見るには、時間当たりの平均時給や、単位当り労働コストが幅広く利用されています。ECBもそれらのデータを重用していますが、コロナ禍を受け、妥結賃金にも注目しているようです。
コロナ禍により賃金データの利用には解釈の点で注意が求められています。例えば、ユーロ圏では職を確保する一方で給与を調整するなど様々なスキームが導入され、賃金動向が読みにくくなっているからです。一人当たりの報酬(CPE)などはコロナ禍に実態とかけ離れた大幅な変動を示しました。
また、ユーロ圏ではコロナ禍に移民が減少しました。就労目的の年代の移民が減少したことで、労働人口に関連する指標などの解釈に注意が求められています。
コロナ禍を受け労働市場の分析が難しくなる中、幅広い指標から総合的に判断する必要があり、妥結賃金はコロナ禍の影響が少ないと見られます。ECBも最近の月報で、妥結賃金の欠点を指摘しつつも、その有用性に言及しています。
なお、賃金動向の把握が難しいという事情は米国も同じです。そこで米国では雇用コスト指数(ECI)の利用が、影響が少ないという同様の理由で、増えているようです。ECBは最近の月報で、妥結賃金とECIを比較してユーロ圏は米国に比べ賃金による物価上昇圧力は足元緩やかと述べています。
確かに、10-12月期妥結賃金の数字(1.51%)を含めてもこれまでのところユーロ圏の賃金上昇圧力は低そうです。
しかし市場では今後の賃金動向に関心が高まっています。妥結賃金は過去失業率が低下すると上昇する傾向がありました(図表2参照)。ところが足元では賃金と失業率の関係が大きく崩れています。昨年まではコロナを背景に労働者側が賃金交渉を抑制したことなどがかい離の原因である可能性があります。しかし、インフレ率が上昇傾向の中、今後の賃金交渉では賃金引上げ方向への圧力が高まると見ています。
もっとも、ウクライナ情勢悪化という賃金動向の先行きをさらに不透明にする要因が今後の読みを複雑にしています。
ECBは3月の理事会ではECB経済予測を公表します。ラガルド総裁はユーロ圏の賃金は抑制されていると繰り返し指摘してきました。次回のECBの予測において賃金の見方に変化があるのか、注目度が高いと見ています。
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