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- 分散型金融(DeFi)と暗号資産市場の下落
ビットコインなどに代表される暗号資産(以前は仮想通貨)が大幅に下落しました。今回の下落には、分散型金融(DeFi)の動向が関連しているようです。DeFiには金融取引コストを下げる可能性など将来的に有望な分野ながら、レバレッジなどを通じて暗号資産の投機に利用されていた面もあるようです。DeFiで生まれた技術を実体経済に生かす力が試されているようです。
暗号資産市場下落:ビットコインなど暗号資産の下落が続く
以前当レポートで、暗号資産(以前は仮想通貨)市場においてステーブルコイン(ドルなど法定通貨との価値が連動するように設計されている)の「テラUSD」の急落を取り上げました。ただ、昨年終わりから今年にかけビットコインなど暗号資産市場全体に市場の動揺が見られます(図表1参照)。
暗合資産市場の下落の背景として、米国をはじめ各国の金融引き締めやリスクオフなど様々な要因が考えられます。しかし、暗号資産市場に固有の問題として分散型金融(DeFi)に伴う下落にも注目が集まっています。
分散型金融(DeFi)の預かり資産が急増した後、足元は急落
まず、分散型金融(DeFi)とは何かですが、明確な定義は見受けられません。一例として国際通貨基金(IMF)の表現を要約すると「DeFiは暗号資産市場をベースとした金融仲介サービスで、全ての金融取引は中央集権的な仲介無しにネットワークにより提供される」となっています。イメージ的には、既存の金融機関が提供する貸出、借入や交換(暗号資産)から、資産保管など幅広いサービスを中央集権的な仲介者なしにシステム的に生み出すサービスという印象です。
DeFiへの期待として、ブロックチェーン(分散型台帳)などの技術をベースに、金融機関の仲介なしに、低コストで金融サービスを提供することがあげられます。ただ、IMFなど国際機関や主に先進国政府からは最近の市場の動揺を受け、DeFiに対し批判の声が高まっています。例えば、IMFや国際決済銀行(BIS)などがDeFiのリスクを指摘するペーパーを数多く公表しています。そこで、当レポートでは暗号資産市場の下落要因のうち、DeFiの貸出(レンディング)に焦点を絞って話を進めます。
DeFi市場の規模は主な分散型金融である、レンディング、イールド・ファーミング、暗号資産の交換(トレーディング)、その他の商品から構成されています。図表1と2のTVLはこれら分散型金融に預けられている暗号資産の合計でDeFi市場の規模の目安です。
交換はUniswap社などがサービスを提供しています。ある暗号資産を別の暗号資産に交換するサービスです。イールドファーミングは暗号資産の価格差などの裁定取引を行う運用サービスです。レンディングは暗号資産の貸出(預け入れ)と暗号資産を担保とした暗号資産を借入れるサービスです。
DeFiサービスのTVLの内訳を見ると、交換やイールド・ファーミングの規模は大きいですが、レンディングも主要な機能を提供しています。なお、暗号資産市場が下落する中、DeFiの市場規模は急激に縮小しました。その様子を見ると、イーサリアムとの連動が高いようです(図表2参照)これは分散型金融のもととなる技術基盤(公開ブロックチェーン)をイーサリアムに依存していたためと見られます。
DeFi市場と暗号資産の下落に様々な原因が指摘されています。レンディングについていえば、名前とは裏腹に実体経済への融資に使われることはなく、もっぱら、暗号資産の投機に利用されていたとの指摘が多く見受けられます。
BISの最近のペーパーを参考にすると、レンディング市場の参加者は匿名で行われています。伝統的な融資では借り手情報は信用審査で念入りに調べるのと大きく異なります。DeFiのレンディングでは匿名取引の安全性を担保により確保する構造となっています。さらに、IMFの最新の金融安定報告によると、担保として利用されていたのは変動性が高い暗号資産であることが指摘されています。
なお、DeFiの優れた点として、担保の変動に伴うヘアカットや、証拠金などの算出を、スマートコントラクトという透明性が高い仕組みで自動的に行える点にあると見られます。特定の仲介者や管理主体を必要としない点で、DeFi全般を拡大させたたうえ、今後も取引コストの削減などを実現させる上で重要な進歩と見られます。
そのような優れた技術があったとしても、匿名、それゆえ担保に依存したレンディングでは、担保となる暗合資産の価値が変動することで、暗号資産市場の変動をより拡大させるという欠点が浮き彫りとなりました。暗号資産市場が下落して、担保価値が低下した場合、借り手は担保(暗号資産)の上乗せを求められることがあり(出来なければ一定のルールの下で清算)、このような動きが暗号資産の変動をより大きくした可能性があります。
また、市場参加者はDeFiで借入を重ねレバレッジにより暗号資産のポジションを組む動きもあったようです。暗号資産の下落の振幅をレバレッジが拡大させたものと見ています。
DeFi、目先の対応と今後の課題
DeFiの利用が、レバレッジを効かせた投機や、暗号資産を担保とすることに依存した取引であるとすると別の疑問も浮かび上がります。仮に資金提供を価値が安定しているステーブルコインにしたとしても、担保を暗号資産で用意する必要があるのならば、実体経済の資金調達に利用するケースは限定的とバル恐れがあることです。DeFiで利用されるスマートコントラクトの仕組みなどは取引コストの軽減などが期待されます。DeFiは仲介者などが介在しないことから安価に金融サービスを提供できる可能性があります。それゆえに、銀行口座をもてない人々に金融サービスを提供することへの期待もあります。しかしながら、現在の担保ベースのレンディングはそもそも担保を用意できる人にサービスが限られるジレンマがありそうです。完全な匿名性を維持しながらレンディングのようなサービスを継続するのは困難で、仕組みの見直しを求められそうです。
DeFiに見直しが必要なことが明らかになるに伴い、金融当局からは、暗号資産市場に対し存在意義さえ無いと聞こえるような、辛らつな意見もありました。
確かに改善が必要な面はあると思われます。例えば、 BISのペーパーでも提言しているように、匿名によるレンディングから、借り手の調査を行う方向への改善が考えられます。ただ、見直しは必要として、DeFiの利用拡大に伴い生み出された様々な技術まで一蓮托生で悪者扱いするべきでは無いと筆者は考えています。DeFiなどから生み出された仕組みや技術は、今後のデジタル通貨、決済の主要インフラ技術となることも期待されます。混乱があったから、何でもダメではなく、今後のデジタル通貨の主流を見抜くことが求められそうです。
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