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- 米国の労働市場と金融政策
米国の労働市場は80年代以降では過去に例を見ない人手不足となっています。そのため賃金が上昇する傾向にあります。これまでのエネルギー価格や住居費の上昇から、賃金がインフレの要因として主役となりつつあります。FRBも賃金動向には今後最も関心を払うことは想定されますが、金融当局の対応には限界もあるのかもしれません。
パウエル議長講演:米国労働市場の動向に注意が必要と指摘
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が2022年11月30日に行った講演では利上げペースの減速や政策金利の最終到達点(ターミナルレート)の予想が若干高まるにとどまる、という点などに焦点が当たりました。
しかし、パウエル議長の講演では、講演のタイトルである「インフレと労働市場」にあるように労働市場の分析に重点が置かれています。インフレ抑制に伴う利上げと、雇用最大化は方向が異なる政策のようにも思われがちです。しかし、パウエル議長は、高インフレは低所得者の生活を脅かすことから、価格安定性なくしての安定的な労働市場は考えられないと指摘しています。
米国労働市場は働く人が不足するというやや特殊な環境にある
米国の労働市場が足元で特殊な環境にあることは労働者の過不足で確認できます。図表1にあるように1980年代にさかのぼると、米国では労働者が余る状態(労働の需要<供給)が通常でした。しかしコロナ禍を経て求人数と就業者数の合計で代替した労働需要は供給を大幅に上回っています。米国のインフレはエネルギー価格、財価格、住居費などの上昇で悪化(上昇)してきました。しかし今後のインフレ動向を左右するのは人手不足による賃金上昇とみられます。パウエル議長は、接客業や教育など住宅を除く幅広い分野のサービス価格動向を重視する姿勢を示しました。サービス価格は従業員などの賃金の比重が高い傾向があります。コロナ禍に見られた雇用調整(レイオフ)から、コロナ収束によりサービス分野で労働者需要が急速に高まり、賃金上昇が起きたと指摘しており、賃上げによるインフレ圧力が弱まらない様相です。
労働者が不足する理由は高齢者の早期退職などが挙げられる
不足する労働者はどの程度か?講演では労働人口の実績と、議会予算局(CBO)がコロナ禍前に推定した労働人口のトレンドとを比較して、350万人ほど過少であると述べています(図表2参照)。
興味深いのは内訳で、コロナによる健康上の理由なども考えられますが、FRBのエコノミストによると、350万人のうち、200万人については高齢者の早期退職が原因であると指摘しています。
早期退職した高齢者の労働市場への復帰が遅れていることは年齢層別にみた労働参加率に示されています(図表3参照)。25歳~54歳の労働参加率は足元82.4%とコロナ禍前に近づいていますが、高齢者の労働参加率の回復は鈍いままです。
高齢者の労働市場への復帰が遅れているのは、健康上(コロナ感染への懸念も含む)の理由や、職を失った高齢者が接客を伴わないなど条件に合った新たな職を確保することが困難であることが考えられます。
一方で、手元に資産を保有する裕福な高齢者が仕事に復帰していないことも考えられます。
11月の雇用統計で非農業部門雇用者数は前月比で26.3万人増となりました。パウエル議長は就業者数の適正な伸びの目安は前月比10万人程度と市場と同様の見方を示しました。この数字から比べると、企業の採用意欲は高いといえますが、高齢者との思惑にずれもあるようです。
金融政策による対応
なお、高齢者の早期退職以外の約150万については、コロナによる人口減の影響と、移民流入の減少を挙げています。ちなみに米国のコロナによる死者数は累計で百万人を超えています。移民流入の減少は政治的要因と、コロナ対策による移民流入への制限が背景として考えられます。
最近の米国企業の一部は採用を見直し、レイオフを実施する企業も見られます。一方で、依然採用を続ける企業も見られます。平均時給を見ても特にサービス部門は高止まりしています。インフレ要因は根強く残っており、パウエル講演を金融緩和への転換点とみるには時期尚早な面もありそうです。市場は先読みをするとしても、当局は慎重に賃金動向を注視すると思われます。
ただし、金融当局の本音がどこにあるのか不明確な面もあります。パウエル議長の講演を題材に米労働市場を振り返ると、高齢者の健康懸念や移民の問題など金融政策の対応というより、政治が対応すべき問題が多いように思われるからです。12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、ターミナルレートの水準などとともに、労働問題に対するFRBの対応、もしくは考え方などにも注目しています。
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