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- スウェーデンの不動産事情
スウェーデン・クローナが対ユーロで最安値水準での取引となっています。景気悪化見通しや不動産市場への懸念が背景と思われます。報道などでもスウェーデンの不動産会社の格下げが伝えられています。コロナ禍後の経済再開と過去の低金利が不動産投資を過熱気味とさせたツケが回ってきたものとみられます。不動産各社と金融当局には今後も踏み込んだ対応が求められそうです。
スウェーデン・クローナ、景気悪化見通しや不動産市場懸念で最安値更新
スウェーデン・クローナは2023年6月20日の取引でも弱含み、対ユーロで過去(ユーロ開始以来の)最安値を更新しました(図表1参照)。市場ではスウェーデン中央銀行の利上げサイクルが終了に近いとの見方が強まっています。その背景として、スウェーデンの景気回復見通しが弱まったこと、同国の商業不動産業界を巡る不安などがあげられます。
スウェーデンの不動産市場は利上げの影響などで軟調な展開
スウェーデンの不動産企業の格下げ報道を目にする機会が増えています。不動産価格の下落による業績へ悪影響(図表2参照)、債務借り換えの利払い負担上昇などが格下げの背景とみられます。
スウェーデン中央銀行は6月1日に金融安定報告書を公表しました。同日テデーン総裁は会見で、国内の商業不動産セクターが金利上昇と価格下落で苦境に陥っている点に懸念を示しました。しかし不動産セクターへの融資比率が高い同国の銀行に危機が起きる確率は小さいと指摘しています。しかしながら、テデーン総裁はスウェーデンの不動産各社がバランスシートを再び健全化するにはなお時間がかかるとの見方を示し、リスクがあることも認めています。
コロナ禍後の経済再開と当時の超低金利を背景に、スウェーデンなどの不動産価格は上昇傾向でした。しかし、スウェーデン中銀が利上げに転じたこと、オフィス稼働率の低下などが不動産業界を苦しめています。英不動産会社サヴィルズによると、23年2月時点オフィス稼働率はストックホルムで60%にとどまるとみられます。
不安として浮上しているのが債務の借り換えで、スウェーデン金融監督当局によると、商業用不動産会社には27年にかけて総額4500億クローナ規模の債務償還が見込まれています。そこでスウェーデンの主な不動産会社(34社加重平均)の返済能力をインタレスト・カバレッジ比率(IC比率、利益が債務をカバーする比率)でみると、23年1-3月期でIC比率の加重平均は3倍程度です。 IC比率の加重平均については格付け会社が投資適格格付けとする目安などを超えているとみられ、現在の格下げは個別会社の動きなのかもしれません。しかしながら、点線で示された推定値は、スウェーデン中銀が政策金利を3.65%にまで引き上げ、同水準を25年まで維持、かつ不動産会社各社が資産売却など何の対応もしなかった場合のIC比率の推移を示しています。23年末には同比率は2をやや上回る程度に低下(悪化)することが懸念されます。
不動産市場の不安を和らげるために求められる対応
これまでのスウェーデンの不動産会社の対応として資産売却、新株予約権の無償割り当てによる負債比率の押し下げなどが見られました。スウェーデンの不動産会社には今後も同様の対応を続ける必要があると思われます。
一方、市場の一部では早期の利下げ観測が浮上しています。スウェーデン不動産市場の不安に加え、景気回復も鈍いことからスウェーデン中銀による対応への期待です。なお、欧州連合(EU)が5月に発表した経済見通しでは23年のスウェーデンの成長率はマイナス0.5%の減少となっています。EU全体の見通しである1.0%増加を下回っており、景気テコ入れの面からも利下げ観測がくすぶっています。
しかしながら、利下げにはまだまだ時間がかかるのが大方の見方と思われます。理由はスウェーデンのインフレ率です。5月のインフレ率は前年同月比で9.7%上昇と、物価目標を大幅に上回っています。エネルギーなど変動項目を除いたインフレ率は8.2%上昇で、ピークである2月の9.3%をやや下回る程度です。市場の政策金利の見通しは年内3.8%程度で、さらなる利上げを見込んでいるのが実情です。
スウェーデンは1990年代に深刻な不動産危機を経験しました。80年代後半の不動産バブルが、90年の湾岸危機を契機とするインフレ率の上昇で一気にはじけ、不動産危機が銀行に波及し金融危機に発展しました。当時のスウェーデン当局は銀行の不良債権に対しスウェーデン型と呼ばれる不良債権処理会社の設立で危機対応をしました。この時の当局の対応は、その後の不良債権処理の一つのモデルケースとなっています。スウェーデン当局の危機対応能力は高いと考えられます。しかし、不良債権処理はあくまで危機の事後的対応です。今求められるのは事前の対応だと思われます。
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