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- グロイン15周年公益セミナー③~ナショナル・グリッド編
10月15日開催のグロイン15周年、ピクテ・グロイン・スペシャル・オンラインセミナーでは、ESGは単なるアピールか、競争力の源泉か? ESG投資で注目される公益株投資の魅力とは? と題して、公益企業の経営陣をお招きして、グロインの商品担当者、運用者と各企業のプレゼンテーションとQ&Aセッションを行いました。そのうちひとつナショナル・グリッドとのセミナーセッションの内容をまとめてお伝えいたします。
グロイン15周年公益セミナー ③ナショナル・グリッド編
地球温暖化の脅威による政策の本格化はクリーンエネルギー拡大を後押ししています。クリーンエネルギーシフトは公益企業へのメリットをもたらします。①発電コスト低下は利益増要因、②環境にもやさしい取り組みはESG評価を高め、企業収益にプラスです。公益株式に投資するファンドのなかで世界最大級のファンドであるグロインはESG評価を重視しており、企業へのエンゲージメント(対話)を通じて、グリーンエネルギーシフトを働きかけ、持続可能な社会に貢献していきます。本レポートでは、再生可能エネルギー拡大に必要不可欠な送電線網を英国、米国で展開するナショナル・グリッドについてご紹介します。
英国・米国で電力・ガス事業を展開する最大級の公益事業会社、送配電事業に強み
ナショナル・グリッドは、英国・ロンドンに本拠を置く欧州の上場企業であり、電力・ガス事業を展開する最大級の公益事業会社です。当社は、1990年に英国の電力事業民営化により設立され、2000年代に入ってからの英国と米国での企業買収により、事業を拡大してきました。当社2020年3月期決算における営業利益の93%は、英国・米国での規制下事業によるものです。営業利益の残り7%は、新規のナショナル・グリッド・ベンチャーズ事業です。 現在、英国での電気・ガス供給事業では、イングランドとウェールズ全域を網羅する国内最大の電力・ガス供給網を保有しています。英国の規制下事業の資産総額は、200億ポンドを超えています。米国では、米国北東部にガス供給、配電、送電などの資産を保有する国内最大級の民間公益事業会社です。米国事業全体での規制下事業の資産総額は、250億ドル強となっています。 残りの、ナショナル・グリッド・ベンチャーズ事業では、米国での大規模な再生可能エネルギー発電事業で太陽光・陸上風力発電所を建設・保有しています。また英国と欧州間の海底電力相互接続を行っています。 英国・米国共に、当社の電力・ガス供給事業は、現地規制当局によって規制されており、インフレを反映した料金設定が考慮されるなど、インフレに対する一定の保護策が取られています。また、ナショナル・グリッド・ベンチャーズ事業は大部分が長期契約です。 こうした事業形態のため、 1)既存資産に投資して、信頼性と耐性の高いネットワークを維持し、2)イノベーションとパフォーマンスを促進するインセンティブを含め、新たな資産に投資しながら、3)魅力的な自己資本利益率(ROE)を確保することがでます。このため、事業の見通しがしっかりしており、当社の事業は安定したキャッシュフローを生み出すことができ、株主への配当を継続し、着実に増加させることが可能となっています。現在、グループ全体で年間約50億ポンドの投資を行い、また現在の信用格付け水準を維持し、英国のインフレ率を十分織り込んだ水準の増配を行いながら、引き続き年率5~7%のグループ資産の成長を目指しています。
積極的にコア事業へ投資
ナショナル・グリッドは再生可能エネルギー発電の拡大に伴い、まず、1) 再生可能エネルギー発電の送電線網への接続、 2)そして、供給エリアから需要エリアへの再生可能エネルギー電力の供給に投資しています。気候変動との戦いのために投資しています。例えば、米国では、暴風雨が増えることで、停電が増えます。つまり当社が電力供給しているお客様が影響を受け、また何十億ドルに相当する生産性の低下につながります。そのため電線の強化に投資しています。また、保有・運営している資産の重要性を考慮し、当社ネットワークにおけるサイバーセキュリティにも投資しています。
気候変動への取り組み~全事業を通じて2050年までにCO₂などの温室効果ガス排出量実質ゼロを目標
昨年、当社は全事業を通じて2050年までにCO₂などの温室効果ガス排出量実質ゼロを達成するという削減目標を設定しましたが、最近になってさらに取り組みを進めるため、対2016年比で2030年までに排出量を20%削減し80%とするという目標を掲げました。 英国、事業展開している米国東北部の双方で、温室効果ガス排出量の削減が掲げられており、政策立案者と規制当局が次の内容を実現する方法を検討しています。1)よりクリーンな電力源による発電、2)運輸・暖房におけるより広範囲にわたる電化 、3)そして、よりクリーンなガス、ナショナル・グリッドは、このエネルギー転換の中心におり、今後、非常に多くの投資機会を有しています。
イノベーションと投資
現在、ナショナル・グリッドは必要とされるインフラの構築に向け新たな解決策として、1)電気自動車の充電インフラへの投資で、計画では、2040年までに英国内で3,000万台の電気自動車が走行できるようにしていきます。2)ガスパイプラインの水素を活用したイノベーションを推進しています。当社のネットワークを、100%水素用に稼働させるプロジェクトに取り組んでいます。3)洋上風力発電の陸上送電網への接続に関して、英国の洋上風力発電所と欧州各国を接続するための方法など、新しい、イノベーティブな接続方法を検討しています。
米大統領選での民主党バイデン勝利かどうかにかかわらず、クリーンエネルギー政策を推進する州が増加しており、事業活動へのメリットは継続
米国では来月大統領選挙が行われますが、2050年までに排出量実質ゼロを目標とした2兆ドル規模のインフラ政策を打ち出しているバイデン氏が勝利すれば、再生可能エネルギーとクリーンエネルギーへの投資機会は増えることになるでしょう。ただし、当社は、すでに意欲的な気候変動目標を掲げ、11月の大統領選の結果に関係なく多くの投資機会が存在している複数の州で事業活動を行っています。 再生可能エネルギーは、その経済性から今後も成長を続け、生産能力も拡大すると考えられるため、 接続に必要となる送電網の設備も拡大していくでしょう。
ESG投資の高まり
政策に頼らなくても、既に、エネルギー転換によって、新たな技術の開発・導入を進めることができるようになっており、ESGへの取り組みを通じて、今後数十年にわたる成長投資を行うことがが可能になっています。 1)主要(コア)事業以外の事業にも機会が生まれます。2)投資資金の新たな調達方法も生み出されています。 例えば、当社の通常発行している社債と比べて有利に発行できるグリーンボンド(環境債)などが挙げられます。 また、二酸化炭素排出量実質ゼロに向け投資の強化を求めている当社の顧客、株主、規制当局などのすべてのステークホルダー(利害関係者)ともより良い関係を築くことができます。 当社は、現在の、そして未来の従業員のために、事業分野全域で技能を要する仕事をより多く創出していきます。これらはすべて、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂性)を重視した強固なガバナンス体制によって支えられています。当社の事業全体に優れたカルチャーが浸透しているのもこのガバナンス体制があるからだと思います。最終的には、それらすべてのことを責任ある形で実施して、従業員の安全性を確保し、お客様に満足していただき、そして当社のすべてのステークホルダーに最高の結果をもたらしていくことにつながります。
まとめ
つまり、エネルギー業界は変化しており、ここ英国、そして米国北東部全域において、ナショナル・グリッドはその中心にいるということです。エネルギーインフラ投資の見通しは、今までにないほど明るいものとなっています。当社は、気候変動目標を達成するためにイノベーションに取り組んでいます。そのことから、長期にわたる持続的なキャッシュフローの拡大と株主への継続的な増配を実現することが可能になっています。 当社の歩みや取り組み・活動について皆さんにお伝えできたことを嬉しく思います。
Q 英国の温室効果ガス排出量実質ゼロ目標でナショナル・グリッドが果たしている役割は? ~再生可能エネルギーによる電力を接続するために重要な送配電網の拡充を担う
Q 最初は英国についてですが、英国は2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロに向け意欲的な目標が掲げられていますが、ナショナル・グリッドが果たしている役割についてご説明いただけますか。 ナショナル・グリッドは、自社目標として2050年までに実質ゼロとする二酸化炭素排出削減目標を掲げています。エネルギー転換では、大規模な再生可能エネルギーによる電力を接続するための送電網の増設が極めて重要と考えています。これは、英国政府が2030年までに、現在の容量の5倍となる洋上風力発電40GW導入を公約している状況を踏まえてのことです。これは当社ネットワークを拡大・増強できる機会をもたらすことを意味します。 イングランド北部とスコットランドの発電エリアからイングランド南部の需要エリアへとより多くの再生可能エネルギーを供給する必要があります。従って、電力を安全に供給するために新たな送電線と接続機器が必要になります。 また、英国政府は2030年代中に二酸化炭素を多く排出する車を全面的に排除する方針を掲げており、実現には、電気自動車用の超高速充電インフラの整備が急務となります。 当社は、政府やその他の関連事業者と共に、95%の車両が超高速充電できる道路ネットワークを構築するプロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトは費用として5億~10億ポンドが見込まれています。 その他に、バスやフェリー、そして飛行機も含めた公共交通機関の脱炭素化も視野にいれています。 そして、暖房にも目を向けています。一般的に英国では暖房にもガスが使われており、英国の世帯の約80%がガスを使用しています。1週間に1万世帯のペースでガスから電気への切り替えが行われたとすると、全世帯が電気に移行するのに30年かかってしまいます。エネルギー転換を実施・加速させるために、水素に重点を置いた方法を考え、既存のネットワークで100%水素を使用するパイロット試験を検討しています。また、二酸化炭素の回収・貯蔵にも取り組んでいます。
米国における成長のけん引役は?
Q 成長見通しは、英国よりもさらに米国の方が高くなっています。米国における成長のけん引役は何なのでしょうか。そしてその成長率の持続可能性についてご説明いただけますか。 まず状況ですが、米国事業は高い成長率を記録しており、中期の資産成長率は年率8%と予想しています。この成長の重要なけん引役となっているのが、送電・配電網、そしてガス供給ネットワークへの設備投資です。この設備投資によって規制枠組みの料金算定の基礎となる資産価値(レートベース)が増加します。この投資の約90%は供給事業が占めています。2021年度については、米国の規制下事業の送電線網、ガス供給網などに約35億ドルの設備投資を行う見込みです。 成長をけん引する主な要因は3つあります。 1つ目が送電線網やガス供給網のネットワークの安全性と信頼性です。数十年かけて管轄地域全域で、かなり古いく漏出が発生しやすいガスパイプラインの鋼管パイプをプラスチックに取り替えるなどの計画を策定しています。安全性は最重要事項であることから、規制当局は取り替え計画を支援してくれていると考えています。 2つ目ですが、ネットワークの耐性への投資です。米国北東部への影響が大きく、近年は暴風雨が頻発しており、当社システムの増強に投資し、耐性を備える必要があります。 3つ目は、イノベーションへの投資です。当社は、米国北東部の洋上も含め、稼働開始する新しい再生可能エネルギー発電資産を接続しています。これに関連して、電気自動車の充電に関する新しいイノベーションにも投資し、電気自動車の充電ネットワークの整備を進めるために取り組んでいます。 これらが現在の成長のけん引役であり、中期的に8%前後という高い水準の資産成長率が維持されています。
英国の現在の状況下で収益性のある事業展開できるか?
Q 投資できる範囲とその投資のリターンについての最終的な基準を設定する立場にある規制当局ですが、英国規制当局は英政府が掲げている目標に沿っていると思いますか。また、現在の状況下で収益性のある事業展開ができますか。 当社は、英国の規制当局であるOFGEM(ガス・電力市場局)と、2021~2026年の5年間についての新たな規制枠組みの合意に向けて、消費者を保護、英国の脱炭素化への適切な投資、政府の政策目標の達成を可能にする最もバランスのとれた内容となるよう、12月に予定されている最終案にむけてより良い内容にするため取り組んでいる最中です。私たちは、最終案が、当社株主をはじめとした当社の顧客、サプライヤー、規制当局などのすべてのステークホルダー(利害関係者)にとって納得のいく財政支援策が伴う形になると期待しています。
米国で収益性は現在の水準を維持できるか?
Q 米国では近年、利益率や自己資本利益率(ROE)を高めて収益性を大幅に高められています。これはどのようにして実現させたのか、教えていただけますか。また、今後も収益性は現在の水準を維持できるとお考えでしょうか。 当社は、米国の規制当局の定めた目標、供給量の達成に向け、規制当局と緊密に取り組み、それらの目標を達成しながら、お客様に効率的な価格で供給するように努めています。そうすることで、当社は米国の管轄地域において信用できるパートナーとなることができたのです。そして成長投資の実施、事業コストを制する能力の向上、より効果的で効率的な運営が可能となる複数年の規制計画で規制当局と合意することが可能となっているのです。 この5年間、当社の公共料金と利益の決定要因となる認可自己資本利益率(ROE)水準の95%を達成することができ、昨年は米国事業のROEが平均で9.3%となりました。また費用効率の向上も実現しています。昨年は3,000万ドルのコスト削減を達成しています。 当社の700万人のお客様の顧客満足度は、着実に向上し続けています。このエネルギー転換に伴い、顧客期待度も高まっていき、米国事業のパフォーマンスをさらに向上させていくことができると確信しています。
ESGへの取り組みは?
Q 最後の質問です。ESG (環境・社会・ガバナンス)について、どのように取り組んでいらっしゃるか、また、そうしたESGへの取り組みによって得られる効果は何だと思われますか。 当社はエネルギー転換や現在の気候に対する影響などの環境目標に重点を置いています。 そして、自社の二酸化炭素排出量削減目標だけでなく、削減に向けた社会的な転換の実現にも重点を置いて取り組んでいます。また、さらに視点を広げて、事業活動を行っているコミュニティでの雇用と技能の創出にも重点を置いています。英国のエネルギー転換促進のために必要とされるエネルギー関連の技能を有した雇用は40万人分に上ると試算しています。当社が直接的に創出できる規模は小さいですが、サプライチェーン全体から考えると当社がかかわる規模はかなり大きいものとなります。 最後に、ナショナル・グリッド全体のガバナンスカルチャー(企業統治の文化)については、人々が的確な質問をし、正しい行動を取れるように取り組んでいます。 顧客、株主、サプライヤー、規制当局などすべてのステークホルダー(利害関係者)が求めているものを、責任ある形で実現させることだと考えています。 本日は皆さんにナショナル・グリッドについていろいろお話しができ、光栄に思います。
投資対象企業例: ナショナル・グリッド(英国、総合公益事業)
【会社概要】 英国イングランド、ウェールズで送電網、英国全土でガス供給網を保有・運営するほか、米国北東部でも送電網を保有・運営。 【注目ポイント】 同社は2050年に向けて二酸化炭素排出量ゼロの目標を掲げる。2020年には対1990年比70%の削減を達成。(図表参照) 風力や太陽光発電の拡大は送配電網の拡充が不可欠。世界的な脱炭素化による送配電網の需要拡大の恩恵が期待される。 風力や太陽光などのエネルギーは天候に左右され、これまでは供給が不安定なことが問題でしたが、蓄電池のコスト低下や拡充、双方向の送電網によって、これまでより安定した供給が可能になりつつあります。また、電気自動車の普及も送配電網の必要性を高めます。このため、送配電網は温室効果ガス排出実質ゼロの実現に向けて欠かせないインフラとなります。 ナショナル・グリッドは送電線網事業に強みを持っており、再生可能エネルギーの拡大にともなって事業拡大が期待されます。
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