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ファンド・マネジャーからのメッセージ 2020年5月:「これもまた過ぎ去るもの」
2020/05/28

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概要

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、世界は前例のない事態を経験しています。こうした中、インド経済は実に40年ぶりのマイナス成長となるとの見方が強まっています。短期的にはマクロ経済面での問題は山積していること、感染拡大に歯止めがかかっていないことなどが懸念材料で、株価や通貨ルピーの重石となっていますが、引き続き企業の「質」に注目し、中長期的な視点から銘柄を厳選した運用を継続する方針です。



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「これもまた過ぎ去るもの(物事には必ず終わりがある)」

この数か月、「前例のない」を幾度となく耳にしていますが、まさに、「前例のない」事態を私たちは経験しています。都市封鎖や移動制限の影響を受けて世界中の多くの人々が、自宅に籠る生活を余儀なくされています。目には見えないウイルスという敵との戦いです。今回のような「前例のない」状況下で、世界経済や金融市場は混乱していますが、文字通り「前例のない」ことなので、過去と比較するのは難しいところですが、よく引き合いに出されるのは1930年代の大恐慌です。

しかし、大恐慌も終わりがきたように、今回の新型コロナウイルスの感染拡大による経済悪化局面もいつかは終わりが来るでしょう。ただし、それがいつなのか、どのようにして終わりを迎えるのかは残念ながら予想ができません。

その一方で、これまた「前例のない」スピードでプラスの進展もみられています。新型コロナウイルスに対するワクチンの開発は、世界中で活発かつ、急速なスピードで進められています。また、民間企業が、必要とされる医療関連機器等の提供に向けた動きを加速していることも、目を見張るものがあります。

インド国内の状況に目を転じると、人口13億人超を抱え、過密な状況であることに加えて、医療体制は先進国に比べるとはるかにぜい弱です。こうしたことから、感染がさらに拡大すれば、国内経済に与えるマイナスの影響は計り知れないと懸念されます。モディ政権は、感染拡大の早い段階、2020年3月25日より全土封鎖といった強力な措置をとったことで、「ソーシャルディスタンス」、ということに関しては一定の効果があったようにみられます。

しかし、短期的には懸念材料は山積

しかし、それが果たして感染のさらなる拡大を抑止し、経済を急速に回復させることに役立ったかどうかは、これからの状況をさらにみていく必要があると考えます。都市封鎖を解除し、医療体制を崩壊させることなく、経済活動をどのように再開させていくかが重要です。

しかし、インドの場合、政策による景気の下支えについては多くの課題があります。財政面では、大規模な財政出動を行うだけの余力がありません。既に財政赤字を抱え、リスク回避局面でソブリン・リスクが高まっていることなどもその背景にあります。中央銀行による利下げなどの金融緩和の余地はありますが、政府債務の増加も懸念される中、実際の金利水準が高止まりしてしまう可能性もあります。

2020年のインド経済は、40年ぶりのマイナス成長に落ち込むとの見方が強まっており、財政や金利水準などを巡る懸念はあるにせよ、政府による財政出動や中央銀行によるさらなる金融緩和などの景気下支え策の組み合せが必要であり、経済面での痛みをいかに軽減させるかが重要になるでしょう。


足元の経済政策として、政府は5月13日に低迷する製造業、農業、雇用などの押し上げを意図としてインドの名目国内総生産(GDP)のおよそ10%に相当する20兆ルピー(約28兆円)程度の規模の経済政策を発表しました。これより先に3月後半に、貧困層を中心に1兆7千億ルピー(約2兆5千億円)の景気対策を発表していましたが、大企業や中小企業向けの措置が遅いとの不満がありました。

また、5月22日には中央銀行が、政策金利のレポ金利を0.4ポイント引き下げ4%とする緊急利下げを実施しました。この政策金利の水準は2000年以降で最低水準となりました。さらに追加緩和の可能性も示唆しています。

こうした政府や中央銀行の緊急政策対応は、危機感の表れであると考えられます。感染拡大の早期の段階から、都市封鎖を実施したものの、現時点でインドは中国を抜いてアジア最多の感染者数を記録しています。しかし、政府は経済への悪影響を考慮して既に外出制限の段階的な緩和に踏み切っています。

足元の短期的な景気低迷や、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化懸念は大いに気になるところですが、今後も感染拡大に歯止めがかからない状況が長く続いた場合、インド経済はさらに苦しい状況に陥る可能性もあるため、経済動向、政策動向、感染拡大状況等を今後も十分注視していく必要があるでしょう。

セクター別の見通し:相対的にヘルスケアの影響は軽微か

どんな産業分野も今回の難局を無傷で乗り切ることはできないでしょう。しかし、分野によってその影響度合いは異なります。

金融セクターは今回の景気減速の負の影響を大きく受ける可能性はあります。クレジット・コストの上昇により、借入依存度の高い企業が返済の遅滞や債務不履行に陥る可能性があり、こうした企業への融資が不良債権化する恐れがあります。こうした状況下、中央銀行の金融緩和策の中には、企業倒産や個人の破産を防ぐために融資返済の猶予なども含まれ、その後、猶予期間の延長も発表されました。本来なら不良債権となるべきものが「見逃される」可能性、問題の先送りとなる可能性もあるため、この点は注意が必要でしょう。

景気減速、失業の増加、個人の収入減少といったことは、あらゆる消費関連分野に直接的なマイナスの影響が及ぶと考えられます。生活必需品など相対的に景気変動の影響を受けにくいと言われる分野でさえ、消費者はより安い代替品を求め、節約しようとする動きを強めているために苦戦する企業もみられます。

情報技術セクターについては、顧客の多くが海外企業であり、世界経済の動向に左右されやすい立場にあると考えられます。特に、米国の景気減速で顧客である米国企業が情報技術関連予算の削減や値引き圧力をかけてくる恐れもあります。また、渡航制限などが続くと、新規案件の獲得活動などにも影響が及ぶ可能性が懸念されます。

一方、ヘルスケアセクターは、マイナスの影響が相対的に軽微に留まると考えられる分野です。国内事業については、景気低迷の影響を大きく受ける可能性が高いと考えられる一方、米国市場などでは引き続き成長が期待されます。

今後の銘柄選別のポイント

今後の感染拡大状況や経済への影響度合いなど、正確に予測することは困難です。こうした環境下で、投資銘柄を選別する際には、まず、厳しい市場環境下でも生き残っていくことができる企業か否かを慎重に判断していくことが必要です。
インド国内最大手の航空会社インターグローブ・アビエーションの例を挙げると、世界的なパンデミックの発生で大きな打撃を受ける航空業界ではありますが、同社については今後10ヵ月間、仮に無収入であっても、固定費をカバーすることが可能な手元現金を十分に有しているとみられます。フリー・キャッシュフローが潤沢であるか、という点は一つの重要な手がかりとなるでしょう。

次に考えるべきは、今後数四半期の業績動向と長期の成長ポテンシャルのバランスです。長期的によい経営を行ってきた企業にとって、短期的な業績の悪化は、企業価値を大きく損なうほどのインパクトはないと考えます。
自動車大手のマルチ・スズキ・インディアを例としてみると、今年度の業績は確かに大きく悪化することが予想されますが、その先を見越すと当社の成長ポテンシャルは大きく、競争力も高いため、現在のバリュエーション(投資価値評価)水準は魅力があると考えられます。

さらに、長期的にも世界で現在進行している、あるいは、今後起こるであろう様々な変化も考慮していく必要があるかもしれません。

インドは、世界貿易におけるウェイトが低いことが長らく議論されてきましたが、今回の危機は、こうした状況を打破しする機会にもなると考えられます。短期的にみると、ルピー安と中国以外へサプライチェーンをシフトさせる動きの中で、インドが世界貿易の中で存在感を増すチャンスがあるとみています。もちろん、この点はインド政府も熟知していることだと思います。

今後、新型コロナウイルスの感染拡大を抑止し、さらにはワクチンや治療薬の開発などによって克服できたとしても、世界の様々な変化は止められないとみています。元の生活に戻っても、例えば、これまで以上にビジネス会議や集会、イベントなどはバーチャルに行われることでしょう。そうなると、出張や外出の必要は当然減るのではないでしょうか?健康に対する意識はより高まり、禁煙の動きもさらに広がるのではないでしょうか?あるいは、消費者は「有事に備えて」という意識が高まり、貯蓄を増やしたり、これまでの消費行動を見直す動きを強めるかもしれません。

こうした様々な変化の可能性について十分検討し、これらが企業の業績にどのようなインパクトをもたらすかを考慮していくことも、銘柄選別の際には重要になってくるでしょう。

今後の運用方針

当ファンドの運用に際しては、企業の「質」に注目し、長期的に見て勝ち組となるような企業を厳選して投資行っています。このため、今回の感染拡大や景気減速局面においても、ポートフォリオの大きな変更は行っていません。

引き続き、ボトムアップアプローチによるファンダメンタルズ(基礎的条件)分析を行い、安定した成長が期待でき、バリュエーション(投資価値評価)に魅力ある質の高い企業を厳選する方針です。特に、今後も構造的な成長が期待できる分野の銘柄に注目し、中長期的な投資スタンスで臨んでいく方針です。


個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。


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