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- 投資戦略~好悪材料が交錯する中、現行戦略を継続
製造業を中心に各国の生産活動が回復傾向にあることや、新型コロナウイルスのワクチン開発への期待感はプラス材料ですが、企業業績の下方修正リスクや、各国での新型コロナウイルスの感染再拡大といったマイナス材料も見受けられます。このため資産構成比に大きな変更は行わず、保守的な戦略と優良な成長戦略をバランス良く配分する、従前の投資戦略を継続します。
7月の投資実績と市場環境
クアトロの2020年7月31日の基準価額は、前月末比で +278円(+2.44%)の11,669円となりました。 (図表I参照)2020年7月の基準価額変動要因の内訳は、株式+109円、債券+27円、オルタナティブ+69円、先物・オプション+28円などとなりました。
世界の株式市場は、新型コロナウイルスの感染者数が世界的に増加傾向を示したものの、事前予想を上回る米国の経済指標や企業決算の発表、新型コロナウイルスのワクチン開発への期待、さらには欧州の復興基金案が合意に至ったことなどを好感し、続伸の動きとなりました。業種別では、一般消費財・サービス、素材、コミュニケーション・サービスなどが大きく上昇した一方、エネルギーが下落しました。
世界国債市場は上昇(利回りは低下)しました。新型コロナウイルスの新規感染者数が増加傾向を示し、一部の国や地域では再び経済活動を制限する動きが見られたため、景気の先行きに対する懸念が広がりました。金融政策面では、米連邦公開市場委員会(FOMC)が金融緩和姿勢を維持したことが、世界国債市場を下支えする要因となりました。
ドル・円為替市場は、新型コロナウイルスの新規感染者数が米国で再拡大したことや、米連邦公開市場委員会(FOMC)において長期的な金融緩和姿勢が示されたことなどから、円高・ドル安が進行しました。ユーロ・円為替市場は、景気の底打ちを示す経済指標の発表や、欧州共同債への道を開く可能性を秘めた欧州復興基金の創設合意を好感し、円安・ユーロ高が進行しました。
運用状況と今後の運用方針
当月の投資行動としては、債券の比率をやや引上げる(図表V②)一方で、オルタナティブの比率を引下げました(図表V③) 。株式では、低ボラティリティ世界株式(ETF)やヘルス関連株式などの保守的な戦略に投資する一方、世界環境関連株式やデジタル・コミュニケーション株式などの成長戦略にも投資する、いわゆるバーベル型の戦略を継続しました。債券では、前月に引き続き中期クレジット債(ETF)や中国人民元建て債券(円)の比率を引上げました。オルタナティブでは市場中立型日本株式ロング・ショートを売却しました。
株式では中国A株(ETF)や世界環境関連株式、デジタル・コミュニケーション株式など、成長性が期待される戦略が大きくプラス寄与となっただけでなく、セキュリティ株式や素材関連株式(ETF)、ヘルス関連株式など、幅広い戦略がプラスに寄与しました。 (図表VI①)。
オルタナティブでは大中華圏(グレーター・チャイナ)株式やフィジカル・ゴールドを中心に、多くの戦略がプラス寄与となりました。 (図表VI②)。
債券では、米ドル建て新興国債券(円)や世界債券・通貨絶対収益などがプラスに寄与する一方、米国の物価連動国債(ETF)や中期クレジット債(ETF)などがマイナス寄与となりました。(図表VI③) 。
今後の方針としては、製造業を中心に各国の生産活動が回復傾向にあることや、新型コロナウイルスのワクチン開発への期待感などから、リスク資産は底堅く推移すると見られます。一方、企業業績の下方修正リスクが株式市場の重石になる可能性や、各国で再び新規感染者数が増加傾向にあることがリスク要因と思われます。このため資産構成比に大きな変更は行わず、保守的な戦略と優良な成長戦略をバランス良く配分する、従前の投資戦略を継続します。
各国政府と世界の中央銀行は未曾有の規模の景気対策を打ち出し、新型コロナウイルスの大流行がもたらした不況下においてグローバル経済を支えようとしています。とはいえ、祝宴を挙げるのは時期尚早です。感染者は世界各地で増え続け、企業収益は急速に悪化しておりピクテの先行指標はさらなる悪化を示唆しています(図表1参照)。金融市場の上昇局面がこの先長期にわたって続くとは考えられません。従って、株式、債券、キャッシュのいずれについても、ニュートラルを維持します。
株式:欧州株式は堅調ながら、金融セクターを引き下げ
【欧州市場は様々な点から米国市場と比較して魅力的】
経済であれ、政局であれ、新型コロナウイルスの感染拡大状況のいずれの観点からも、欧州市場は、米国市場と比較して魅力的だと考え、欧州株式のオーバーウェイトを維持しています。独仏両国が主導した総額7,500億ユーロの「欧州復興基金」の創設にEU加盟国が合意したことに加えて、欧州中央銀行(ECB)が景気刺激策を継続していることから、域内経済は従来以上に堅固な基盤の上に置かれています。従って、2021年のユーロ圏実質GDP成長率予想を約1%上方修正し、約7%としました(図表2参照)。
投資家にとって極めて重要なのは、ユーロ圏経済の、特に米国経済と比較した改善の見通しが、株式市場に織り込まれていないことです。足元の株価純資産倍率(PBR)は、米国の約3.7倍に対して欧州は約1.7倍と格差が拡がっており、米国企業の自己資本比率(ROE)が欧州企業のROEを上回る状況が続くこと、また、両者の格差が、足元の約5%から10%以上に拡大することを示唆していますが、格差がこれほど拡がる状況が実現する公算は極めて低いと考えます。
【極めて割高な米国株式はニュートラル継続】
米国株式は、とにかく、極めて割高と考えられ、約24倍に達した足元の株価収益率(PER)を維持するには、企業の利鞘の安定が求められますが、新型コロナウイルスの抑え込みが果たせず、また、シリコンバレーを拠点とするハイテク大手に対する規制当局の監視強化や11月の大統領選の結果を巡る不確実性が払拭されない状況を考えると、課題の実現は難しいと考えます。
【個人消費の回復で生活必需品セクターに注目】
業種別では、個人消費の増加を背景に、一部の地域で景気回復基調が定着し始めていることから、生活必需品セクターに注目しています。景気敏感株が主導する上昇相場に追随できず、グローバル市場全体に対する上乗せ率(プレミアム)は約10%と、3月時点の20%、過去10年平均の25%をいずれも下回ります。生活必需品企業の利益成長率の改善から示唆されるのは、株価の上昇が正当化されるということです。
【経済の円滑な再開観測の後退に対して、極めて脆弱な金融セクターをアンダーウェイト】
株式ポートフォリオのディフェンシブ・セクターの組入比率を維持するため、金融セクターをアンダーウェイトに引き下げました。新型コロナウイルスの感染拡大に因る都市封鎖(ロックダウン)の打撃に備えた貸倒引当金の積み増しは、概ね、予想された水準に留まっているとはいえ、銀行が、経済の円滑な再開観測の後退に対して、極めて脆弱な状況に留まる状況は変わりません。また、配当の支払いが、予見できる将来において、再開される公算は低いように思われます。ECB、FRB、英中央銀行(イングランド銀行)の健全性規制機構等を含む世界の規制当局は、銀行による配当支払いの上限設定あるいは一時的な配当支払い停止の要請を行っています。こうした状況は、銀行銘柄の投資妙味を大きく損ないます。
債券・為替:ドルのアンダーウェイトを縮小
【利回りが低下しているとはいえ、幾分かの価値を提供している米国の投資適格社債のオーバーウェイト維持】
社債は、利回りが低下しているとはいえ、幾分かの価値を提供していると考えます。低コストの資金調達を可能にすることで企業を支援するとの米国当局の決意が、近い将来、変わる公算は低いと思われます。従って、米国の投資適格社債のオーバーウェイトを維持します。
【新興国通貨の割安感から現地通貨建て新興国債券をオーバーウェイト】
ドルに対するピクテの見方は、債券の組入れの正当性を説明しています。先進国債券の利回りが超低位に張り付き、新興国通貨の割安感が解消されないことから、現地通貨建て新興国債券のオーバーウェイトの度合いを債券セクター中、最も高くしています。新興国通貨は、弊社のモデルで測定すると、過去20年超で最も割安な水準に留まります。
【ドル高からの急激な反転を受け、ユーロをニュートラルに引き下げ】
ここ数週間のドル高からの急激な反転を受け、ユーロのオーバーウェイトをニュートラルに引き下げました。もっとも、これは、短期的なトレーディングであり、長期的な観点では、ドル安の見方を変えていません。
ドル安の根拠は幾つも挙げられます。先ず、米国の経済成長見通しが、もはや、他の先進国を大きく上回る状況にはないことと、金利差が縮小していることです。また、財政赤字と経常赤字を指す「双子の赤字」が先行きを懸念させる水準にまで拡大していることです。ピクテでは、両方の赤字を併せると1970年代以降最悪の水準に達すると試算しています。
11月の大統領選に関連する政治リスクも懸念材料です。最近の世論調査では、バイデン前副大統領がトランプ大統領を破る可能性が増す状況が示唆されており、これが現実となれば、恐らく、企業寄りとはいえない政権が4年間続くことを意味します。いずれの状況も、既に割高感の強まったドルを選好しない根拠です。
【ディフェンシブ資産の中でも最も投資妙味が強い金のオーバーウェイト継続】
金はオーバーウェイトを維持します。中銀各行による大量の流動性供給に伴うインフレ・リスク、ドル安進行の見通し、地政学リスクの強まり、今年下期の新型コロナウイルスの感染拡大状況を巡る懸念等を勘案すると、ディフェンシブ資産の中でも最も投資妙味が強い状況は変わらず、いずれも、今後一段の上昇を示唆すると考えるからです。
ピクテのテクニカル指標は金が買われ過ぎの領域にあることを示唆していますが、機関投資家の過度に投機的なポジションが構築された兆しは殆ど見られません。これまでの買いの大半は、上場投資信託(ETF)を通じた個人投資家の買いです。インフレ調整後の金価格が40年以上前に付けた過去の高値に近付くにつれてニュースで大きく取り上げられる回数が増えていますが、インフレ調整前のベースでは、未だに過去最高水準を約30%程度下回ります。「金融抑圧」の状況が債券の分散効果を削ぐ中、金はバランス型ポートフォリオにおいて重要な役割を果たし続けると考えます。
資産配分比率決定の分析ポイント 4つの柱
ピクテでは資産配分比率決定の分析ポイントとして4つの柱を用いています。その4つの柱は、1)マクロ経済分析、2)流動性分析、3)センチメント(テクニカル)分析、4)バリュエーションです。たとえば、株式の投資配分を決定するにあたってもすべての要素が常に株式のオーバーウェイトを同時に示すわけではありません。投資判断決定には、こうした異なる観点からの投資判断決定のポイントを勘案することが重要と考えています。
1) 先進国経済の見通しの改善を受け、世界経済全体の見通しをネガティブからニュートラルに引き上げ
ピクテでは、先進国経済の見通しの改善を受け、世界経済全体の見通しをネガティブからニュートラルに引き上げました。最も明るい材料は、欧州連合(EU)が総額7,500億ユーロの「欧州復興基金」の創設に合意したことです。基金の70%は2年以内に支出されることとなっており、先行きが大いに期待されます。
景気回復の進捗度合いについては、中国が他国・地域に先行しており、こうした状況が、ドル安の進行と相俟って、新興国市場ならびに素材セクターを下支える要因になりうると考えます。
一方、クレジットカードの使用や交通量の状況等、日常の経済活動を測る指標(「デイリー・アクティビティ・トラッカー」)は恐らく、新規感染者の増加を受けて、世界の経済活動の改善は限定的なものに留まっているということを示唆しています(図表1-1参照)。
各国が公約した金融ならびに財政刺激は、総じて見れば、新型コロナウイルスのパンデミックに関連した不透明感を払拭するのに十分だと考えます。米国の場合、政府の移転支出は、家計の総所得の約4分の1前後と、新型コロナウイルス発生前の2倍を超える水準に達しています。正常な所得源(である雇用)が回復しない場合は将来大きな問題につながる可能性があるものの、当面のところは、経済および市場のサポート要因になっていると考えます(図表1-2参照)。
世界経済のこれまでの回復は、想定よりも良好だとはいえ、個人消費の改善にけん引されるものでした。一方、工業生産は低位に留まり、在庫が減少しています。今後は、生産活動の拡大が景気回復の次の局面を支える中、在庫の安定とその後の緩やかな増加が予想されます(図表1-3参照) 。
2) 流動性(資金動向)~引き続き、極めて潤沢
流動性は、引き続き、極めて潤沢で、ピクテのモデルは主要国の全てに最も高いスコア(++)を付けています。日本は、政府保証付きの新型コロナウイルス対策融資の急増を受けて、他の主要先進国と政策面で足並みをそろえています。世界の主要中銀5行は、年間(2020年予想)を通じて、GDP(国内総生産)比で約14%に相当する流動性を供給するものと見られますが、これは、2008年の世界金融危機後に供給された流動性のほぼ2倍に相当します(図表2-2参照) 。一方、足元の供給のペースには陰りが見られることから、世界の金融緩和局面がピークを付けるのは遠い先のことではなく、今四半期中の可能性もあると見ています。弊社の分析が示唆しているのは、市場が、米連邦準備制度理事会(FRB)による正式なイールドカーブ・コントロールを含んだ年内の流動性創出の工程を全て織り込んでいるということです。
3)センチメント(テクニカル)(市場参加者動向)
ピクテのテクニカル指標から、金の急騰ぶりに対して投機筋の買いが比較的低位に留まっている状況が示唆されることは先行きを期待させます。投資家心理を表す指標は、株式をニュートラルとするピクテの見方を支持する一方で、社債の上昇相場の一服を示唆しています。(図表3-1参照)
投信とETFの資金フローを見ると、米連邦準備制度理事会(FRB)の資産購入プログラムの効果から、投資適格社債やハイ・イールド社債市場への資金流入が続いていますが資金流入のモメンタムはやや低下しています(図表3-2参照) 。一方、MMFへの資金流入や米国株式先物の未決済建玉の推移で見ると、株式への資金流入は依然として低水準に留まっており、投資家の株式の買い余力はまだあると解釈することも出来ます。
4)バリュエーション(相対的価値分析)~債券は、株式よりも更に割高で、バリュエーションは過去20年でもっとも割高な水準
実際のところ、市場にはあまりに多くの好材料が織り込まれたと考えていて、バリュエーションには割高感が見られます。グローバル株式は3月以降、20%以上上昇しており、ピクテのモデルは、2018年9月以来初めて、過去20年平均と比べて割高な水準にあると示唆しています(図表4-1参照)。また、利益は依然、下振れリスクが極めて強い状況が続いています。 もっとも、債券は、株式よりも更に割高で、バリュエーションは過去20年でもっとも割高な水準にあります。米国の物価連動国債と投資適格社債の利回りは、史上最低水準に低下しています。
金は過去最高値を更新していますが、良好なファンダメンタルズとポートフォリオの分散効果を有する資産(である金)に対する強い需要が、上値余地を示唆しています。従って、金のオーバーウェイト(ベンチマークより高い投資比率)を維持します。ピクテでは、金価格が、2020年7月末時点の1トロイオンス当たり約1,975ドルから2025年までに2,500ドルに上昇すると見ています。
ドルは割高
米ドルの過去の均衡点からのかい離を見ると、相当割高な水準で取引されている可能性があります。
米ドルは米国の経常・財政収支の対GDP比との関連性が高く、この比率が低下するならば米ドルの傾向も下向き(ドル安)になる可能性があります。
過去の経験則からすると、今後米ドルが下落する可能性が示唆されています。
ピクテの為替モデルによればドルは各主要通貨に対して適正値から割高となっており、この水準は過去30年間でも高い水準です。過去の実績では高い水準をつけた後、ドルは下落する傾向がみられました。通貨の適正価値を測るピクテのモデルは、大方の先進国通貨および新興国通貨に対してドルに割高感があることを示しています。
新興国通貨は、景気先行指数は新興国のほうが先進国よりも状態が良く、バリュエーションの観点からも魅力的です。ピクテのバリュエーション指標は、新興国通貨が購買力平価ベースで20数年ぶりの割安水準にあることを示唆しています。
米連邦準備制度理事会(FRB)の流動性供給は主要国・地域の規模を上回り、リーマンショック時を上回る規模の流動性供給が想定されます(6頁図表2-2参照)。これは、ドル安・円高要因となると考えられます。
ただし、足元ではドル売り・円買いのボジションが積みあがり(図表5-3参照)、決済通貨としてのドル需要逼迫とのバランスから、短期的にはドルはこのボジションが解消するまでは底固いと見ています。 (図表5-1~5-3参照)
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